邂逅の時は、意外にも近くに転がっている。【4】 己の目を、耳を、鼻を、舌を、触覚を。 理由をつけて、信じない人間がいたとすれば・・。 訳は聞かない。 けど、わたしは。最後までその全てを信じるのだろう。 「ち、あき・・・・」 自分でも驚くほどか細い声しかでない。 当然、数十メートル離れた相手には聞こえない。 ・・・・はず、だった。 派手な赤色の髪の青年は、ふと、顔を上げた。 ばちり、とあった目線が余りにもあり得なくて、久しぶりで、忘れかけていたものだったから、あたしはそれから視線を逸らすことができなかった。 瞳が、大きく見開かれる。 (きっと、あたし達、まったくおんなじ顔してるんだろうな。) そんな事をぼんやりとした頭で考えた。 「真琴」 「ちあ、き。」 「よお、随分と早起きになったんだな。」 変わらず表情、口調でそんなことを言う。 (千昭が、いる。) この世界に。 あたしの前に。 その事実以外、何も頭に入らない。 「おーい、真琴。無視すんなよ。」 背中を預けていた校門から離れ、ゆっくりと千昭がこっちへ来る。 「まことーっ。聞いてるかー、ってなんて顔してんだよ。」 あたし今どんな顔してるんだろ。 嬉しいのか、怒ってるのか、叫びたいのか、泣きたいのか。 頭の中、ごちゃごちゃで全然考えられない。 「ちあき」 「おう、」 「千昭・・」 「真琴」 「っ、ちあきぃ〜っ」 体が勝手に動いていた。 残り数メートルだった間を一気に縮め、千昭に抱きついた。 優しく、ちょっと遠慮がちに回された腕が千昭の存在を強調してきて。 1年間我慢して、我慢しきれなかった涙が次々と溢れてくる。 「千昭〜!」 「へいへい」 「なによー、その、なま返事!」 「他にどうしろってんだよ。」 頭をがしがしとかきながら、でも泣きわめくあたしに律儀に返事する。 「ちあきだぁ〜、」 「俺以外に誰がいるってんだよ、こんな髪。」 「うんっ」 ダメだ、涙が止まんない。 きっと、かなり酷い顔をしてると思う。 目元を千昭の胸に押しつけた。こんな顔、見られたくない。 一瞬千昭が固まって。 所在なげにしてたけど、最後にはあたしの頭にゆっくりと手を置いた。 「へへ、・・1年前と同じだね。」 「っるっせ、こっちは恥ずかしいんだよ。」 早口に捲し立てられる。 確かに、あたしのお守りなんて千昭の性分じゃないと思う。 (うん、ありがと。) 面と向かってはいえないけれど。 その代わり、もしこいつが帰ってきたら、真っ先に言おうと思っていたことを。 千昭から離れ、涙でぐしょぐしょの顔を乱暴に拭う。 それでもおかしな顔には違いないけど、やらないよりはましなはず。 どうしても下を向きがちな顔をぐっと上げて、千昭を見上げた。 「千昭」 「・・なんだよ、急に。」 改めてみた千昭は、1年前より遥かに大人びて、格好良くなっていた。 (でも髪の毛は変わんない。) 相変わらず、勝手にぴょんぴょん跳ねてる。 「おかえり。」 あたしはちゃんと笑えてるかな、自信がない。 千昭が驚いたように固まって。 やがてくすぐったいような泣きそうな顔になった。 「・・ただいま、真琴。」 下を向き、ぼそりと呟かれた言葉だけど、しっかりとあたしに届いた。 (千昭もそうだったのかな。) 最初、あたしが千昭を呼んだ時。 聞こえて、たんだろうか。 今度聞いてみても、いいかもしれない。 「おかえり、千昭。」 また、あなたと一緒にこの時を過ごせること。 わたしは本当に幸せに思っています。 |