瞳の業
date:2006/05/03


 赤、紅、朱・・・・・・。

 その全てであり、そしてどの色とも言えない瞳を持つ男。

 それが、あいつ。『斉藤八雲』だった。











 ・・・人を馬鹿にしたような態度で・・・





「ちょっと、八雲君っ!?どこ行くの?」

「あぁもう。うるさい。君だってちゃんと頭があるんだから、もう少しそれを働かせてくれ。」

  ちょっと!

「人を馬鹿みたいに言わないでよっ。」

「なんだ、違ったか?」










 ・・・常に不機嫌で・・・





「どうして君がここにいるんだ?」

「それは、」

「私が呼んだんだよ。晴香ちゃんが来てくれると奈緒も私もうれしいからね。」

「叔父さん。毎回毎回どうして勝手に・・・。」

「八雲、何度も言うがここは私の家なのだよ。」

  うんうん、おじさんやれやれ

「・・・はぁ、全く。」

  その程度の睨みなんてへっちゃらへっちゃら

「晴香ちゃん。すまないが奈緒を起こしてきてくれないか。」

「分かりました。」

「まったく、君は。」










 ・・・皮肉屋で・・・





「ねぇ、クッキー作ってきたんだけど、」

「・・・誰が?」

「わ・た・し!・・・って、何。その顔は。
 オーケストラサークルに差し入れしたんだけど、そのおすそわけ。」

  ジィ〜〜〜〜〜〜ッ

「・・・・・・・・・。」

  どうしたんだろう?

「・・・・・・何?」

「いや、たしか4日後演奏会があるとか言ってなかったか?」

「えっ、うん。」

  覚えててくれたんだ

「それじゃあ、その演奏会は今すぐ中止だな。」

「えっ!どうして?」

  ニヤッ

  うん?

「君の料理を食べたからだよ。」

「それどういう意味?!」

「君は真性の馬鹿なんだな。そのままの意味だよ。」

「なっ・・・」

  八雲のバカーーーッ










でも未だに癒える事のない、たぶんこれからも決して忘れる事など出来ない傷を、あいつは持っている。

そして、私は知ってる。

時々 ―本当に時々だけど― あいつの、八雲の瞳がどれほど優しくなるのかを。


八雲は私に尋ねた。恐くはないのか?、と。

実際の言葉にはならなかったけど、あれは八雲の本心だったと思う。

生まれた時より奇異の目で見続けられてきた彼の、心だったんだと思う。

私に彼の苦しみを残らず取り除いてあげる事はできない、

けれど少しの間だけでもその傷口を覆い隠す事はできるかもしれない。

そうしたいと思う。

それが八雲に救ってもらった事への恩返しの気分なのか、違う理由なのかは。

今はまだ、考えないでおこう。



八雲と初めてあった時の、あの“あか”の輝きを、私は忘れる事はないだろう。




神永学先生/著・「心霊探偵 八雲」より   By 蔡岐