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「おねーちゃん!早く起きてよっ」

「うー、あと少し……」

「おねーちゃんっ!」

美幸にゆっさゆっさと揺すられながら、私は寝返りをうつ。
そして、次の一言で文字通り飛び起きた。

「もーっ!千昭さん待ってるー!」



巻き戻った次の世界へ


「おい、遅ぇーぞ。真琴!」

「ごめんっ」

髪はぴょんぴょん跳ね、特に前髪はひどい。
必死に手櫛で直すけど、硬いくせっ髪はそう簡単に整ってくれない。
家を出ると玄関先に立つ千昭が見えた。

「すんげー髪っ」

笑う千昭の声、顔が見える。

「千昭っ!!」

「あはは、悪ぃ」

全く悪い、なんてこれっぽっちも思っていない声で言う。
むすぅ、とふくれる私に、千昭は手を差し出す。

「悪かったって、ほら行くぞ」

「え?…あ!」

腕をとられ、引っ張られる。
千昭の腕に身体が密着する、びっくりして反射的に外そうとした腕を、千昭はさらに強く掴んだ。

「ち、千昭っ」

「へー、朝早く登校するのって気持ちいいもんだな」

全然聞いていない。
千昭は前を向いたまま、私を見ない。
手だけはぐいっ、と強く握られ、千昭の腕に絡め取られている。

「千昭?」

「んー」

生返事っ。
なんかだんだん腹が立ってきたんだけど!

「千昭っ」

千昭の前に回り込み、顔を見上げる。

「み、見んなっ」

「……え」

慌てて腕で顔を覆う千昭の間から、少しだけだけど顔が見えた。

「ちあき〜!」

「うわぁっ」

千昭の顔は真っ赤だった。
耳、そして頬まで少し赤かった。
私は思いっきり千昭に抱きついた。

「真琴!」

「あははっ」

なんだか怒っていたことが莫迦らしい。
千昭に迎えに来てもらえたことも、手を繋いでくれたことも嬉しくて堪らない。
しかも、自分でしたことなのに照れてるし!

「っふふ、あはははっ」

笑える。
私も千昭もテンパってただけなんて。

「……笑うんじゃねぇ」

「ぷぷっ、そんなこと、言ったって」

笑いが止まらないんだもん、仕方ないじゃない。
千昭の機嫌は急降下しているけれど、私だってどうしようもない。
千昭の眉は中心に寄って皺を作り、目はどんどん細くなる。


そして、千昭は行動に出た。

「え」

口に何かが触れ、すぐ離れる。

「な、に……っ?」

「お仕置き」

呆然とする私に、千昭はにっこりと笑った。
唇に、頬に、熱が集まる。
えーと、何か起こりましたか今。

「え、えっ?」

「さー真琴ちゃんさっさと学校行くよー」

やたらと明るく言い切って、千昭はずっと掴んでいる私の腕を引いて、強引に引っ張っていく。
笑いは一気に引っ込んだ。
混乱した頭で、引かれるがままに足をすすめる。

通学路に人はまばらで、誰も私たちを注視してはいない。
その中を千昭に引き摺られる。

「えっ……ええっ!?」

唇が熱い。
顔も、耳も、全身が熱い。
前を見ると、伸び放題の朱い髪が跳ねていた。


date:2008/09/15   by 蔡岐