With the time ,you’ll see ...



けたたましく騒ぎ立てる蝉の羽音だけが妙に頭にこびりついていた。



「おいっ真琴!」

「へ?」

名前を呼ばれてはっと頭上を仰いだ。
案の定、高々と打ち上げられたボールが悠々と飛び越えていった。

「あ〜っ!」

「何やってんだよ、さっきからボーっとしやがって。」

「ごめん、」

千昭が呆れた声を上げる。
野球に集中できない。
今日は朝からずってこんな感じだ。

「真琴、大丈夫か?」

「功介」

「体調悪いなら今日はもう引き上げるか?」

実は密かに2時限目くらいから頭痛がしてた。
それは現在進行形であたしを苦しめてたりするんだけど……。

「うっううん!だいじょうぶだいじょうぶ!続きやろ。」

心配してくれるのはすごく嬉しい。
けど、梅雨明けでやっとできた野球を終わりにしたくはなかった。

「行くよっ!」

ボールを投げる。
功介が受け取って千昭と対峙する。
その様子を何とはなしに見つめる。

千昭が未来から帰ってきて、そろそろ1ヶ月が経つ。
感動の再会、というよりは千昭にただ泣きついて よくわからない文句を言っただけだったけれど。

すごく嬉しかった、後から思い出すと火がでるほど恥ずかしかったけど。

二度と会えないと半分諦めていたからなおさら。


(千昭)

過去にしたくない、意味もなくそう思ってた。
終わりにするには千昭はあたしにとって特別すぎて。

一年走った。
がむしゃらに前だけを見て、その先に少しでも千昭の背中を見つけようとした。

今、千昭がここにいるのはあたしが頑張ったからじゃない。
あたしはただ走ってただけ。
そうやって特別すぎる千昭がいない事に、何とか慣れようとした、それだけだった。

(あ〜どうしたんだろあたし)

いつもならこんな辛気くさい事考えたりしないのに。
しかも野球やってるときに。

(おかしいな…千昭は目の前にいるのに)

ひどく遠い。
不思議なことに功介までがすごく離れて見える。


体中が暑い。
熱い。
功介の投げたボールを高々と打ち上げた千昭。
雲ひとつない大空に舞い上がる球体は、やがて太陽と一体となってゆっくりと落ちてきた。

手が上がらない。
まっすぐ定めたように向かってくるボール、しっかり受けとめなきゃと思うのに。

(ああダメだ……、)

そしてあたしは静かに目を閉じた。

date:2007/10/18   by 蔡岐

【photo by ,Santnore