あと、どれくらい待てばいい?



頭に残るのは、太陽よりまぶしい君の顔で。

口に残るのは、数分前に君と一緒に食べたあの甘いお菓子の味。



辺りはすっかり暗くなっていた。

「あー、疲れたぁ。」

片手で自転車をおし、反対の手でジュースパックを大事そうに抱える姿は、
なんていうか、かなり真琴に似合ってた。

「んーどしたの、千昭。」

「・・・や、別に。」

お前の仕草のひとつひとつ、見てて飽きなくてずっと見ていたいなんて。
言えるかってのっ!

「つか、よく食うなぁ。太んぞー。」

「失礼なっ、その分運動してるからいいんですーっ!」

「んなこと言ってていいのかよ。そろそろ腹周りに贅肉が・・」

「千昭っ!!」

「痛ってぇ!」

言った途端におもいっきり肘鉄をくらった。
ちらりと見えた真琴の顔は心なしか赤かった。

「あーもー!千昭のせいでファンタこぼれたじゃん!」

「俺のせいっじゃねえだろ。つか、ちょっとは手加減しろよ!」

「千昭がやらし事言うからでしょー!」

「やらしいって、何も言ってねぇだろ。」

「言った!!セクハラー!千昭のエッチー!!」

と、ばかでかい声で叫びやがった。
陽が沈んでるとはいえ、こんな往来で。

「ばかっ!人聞きの悪ぃだろっ、俺がなんかしたみてぇーだろうが。」

「だから千昭が悪いんじゃんっ!!」

真琴は一歩もひかずに上目遣いに俺を睨んでいる。
くそ、なんて顔してんだよ。

「わかった、謝る!謝るからやめて、この通り!!」

それで結局はこうなるわけで。
ほんと、真琴との喧嘩なんて勝てた試しがない。
どんなことでも、最初に気づいて自覚した方が負けなんだと思う。

「むーー」

真琴はあいかわらず難しい顔。
おーい、いいのかぁ。眉間にしわ入ってんぞー。

「このとーり!な、真琴ちゃん。」

すると、一瞬にして真琴の顔がほぐれた。

「プリン2コ!」

俺は、・・・・不覚にもすぐに返事を返すことができなかった。
くそう、ちくしょう。
やっぱこいつにはかなわねぇー、ってかなんでそんな嬉しそうなんだよ。

「・・・なんで2コ?」

「あたしと千昭の分に決まってんじゃない!」

「・・・・・・。」

「何その反応。いいわよ、あたしだけで両方食べるから!」

「あ〜・・んじゃ、食べますか。一緒に。」

「やったー!さすが千昭。」

何がさすが?とかは思ってもいわないでおく。
“一緒に”、を強調した俺の言葉は見事にスルーされて。
けど、こいつが喜ぶならなんでもいいか、なんて思ってる俺は相当やばい。

「あっ!あのコンビニで買おうよ。ふわふわプリン」

「ふわふわ?なんだそりゃ、普通のとどう違うの。」

「えーっ、千昭ってば知らないの?すっごい美味しいのに。」



その後、ためになるか分からない(多分一生ならねーと思う)プリン談義やらを聞いて、
プリンを食べて、帰ってきた時には晩飯の時間を遥かに超えていた。

あーあ、真琴のやつ。
夕飯ほとんど残ってねーって叫んでそーだな。

そんな事を考えながら、口元に浮かんでくる笑みに、誰もいないことを確認する。
真琴にわけてもらったプリンの味が、まだ俺を支配してる気がした。


date:2007/09/01   by 蔡岐

【photo by ,Santnore