不器用な君達を、僕はずっと見ていたよ。



きっかけは、いつもとても些細なこと。

風が山を浸食するように、僕らの日常は変化してゆく。

それでもこの感情だけは変わらないと、僕は確信してるんだ。



炎天下の中いつものように野球して、いつものように河川敷で自転車を押していた時。

「千昭ってかわいいよねぇ〜。」

真琴のその一言で、全てが始まった。



「「はっ?」」

「うん?え、そう思わない功介。」

「うーん、そう言われてもな。」

「ばっ、思わねぇーよっ!!なんだよかわいいって、せめてカッコイイだろ!?」

「はあ?」

理解し難そうに眉を寄せた真琴に、俺はだんだん真相がわかってきた。
ようやくすれば、今回も真琴は言葉が足りなかったってことだ。

「なんで?千昭だよ。」

「なんでってお前・・・それを俺に言うのかよ。」

あーあ、千昭も可哀想に。
真琴のやつは、・・・・こっちもまったく理解してないな。
やれやれ。どうしてこいつらは、いつもこう一言足りないんだろうな。

ふぅ、と溜息をつけば二人が勢いよくこちらを振り向く。

「「何クールにしてんのよ(だよ)!功介っ!」」

おお、ほんとにすごいハモリっぷりだな。いきぴったり。

「真琴、言葉が足りないぞ。千昭の名前が、だろ?」

「へ?」

「そう言ってるじゃない!」

真琴は鼻息荒くして怒り、千昭は間抜け面をしている。
俺は噴き出しそうになるのを必死で堪えた。

「千昭って名前!最初に功介から聞いた時女の子なのかなって思って。
その事、思い出してたの!」

「女の子・・・」

なにやらショックを受けてるらしい千昭に、さすがに俺も少し同情した。

「仕方ないじゃない!名前だけ聞いたら、誰だってそう思うわよ!」

「まあ確かに。」

「てめぇ功介!」

思わず、ほろりと本音が出てしまう。
途端に、千昭のタックルが降りかかってきた。
慌ててそれをかわす。

「避けんなっ、んでもって逃げんなぁー!!」

「そう言われれば、逃げたくなるのが心情だ。」

「あ、それわかる!」

前方から叫んだ言葉は無事真琴によって拾われた。

「うっせぇよ!つか待て。マジで一発殴らせろ!」

「ちょっと!あんた達置いてかないでよ。」

千昭と真琴、二人揃って走ってくる。
俺は追いつかれまいと、いつもの分かれ道までかなり本気で走る。

ちらちと振り向いた時、千昭の顔がわずかに赤い気がしたけどきっと夕日のせいだろう。
ちょい後ろの真琴を気にしてるのはバレバレだがな。
そんな二人に、なぜか笑いが止まらなかった。

(いつまでも、続けばいいなぁ〜)

柄にもなく、そんな夢を見てしまうくらい。今が幸せだ。

date:2007/08/26   by 蔡岐

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