遠く、遠い、彼方に届くように。(真琴side) 泣いちゃいけない 泣いたら、だめだ ―――。 千昭が未来に帰ってから、早いものでもう1年。 そろそろ夏休みも終わり。 千昭と私と功介。 三人だった野球は、今は功介の彼女さん(果穂ちゃん)とやっていて、 たまに彼女の友達が加わる事がある。 不満なんてなかった。 大好きな野球ができて、功介と果穂ちゃんは楽しそうで(まさにラブラブって感じ) 前より人数が増えた事で野球らしくなったし。 不満なんて、・・・・・ないはず、なのに。 わたしは相変わらず功介や友梨や果穂ちゃんに迷惑をかけている。 くしゃくしゃ、と功介がわたしの髪をかきまぜた。 そのままポンポンッと今度はあやすように手を置かれる。 わたし達以外誰もいない河川敷を、せせらぎだけが支配する。 夕日は今まさに沈みそうで、功介の後ろから射すような緋い光が覗けた。 「ん・・ひくっ、・・っ功介ぇ」 「ほいほい、」 呆れたような声を出して、けれどあくまでも穏やかな表情の功介は、 さきほどからわたしの呼びかけに律儀に答えている。 “こんなんだから、わたしが甘えちゃんじゃない!” 子供じみた八つ当たりを心中だけで吐きだして、やっと収まりかけてきた涙をグッと拭った。 「・・・ありがと、功介」 スンッと鼻をすする。小さく功介が笑った。 「ひどっ、今笑ったでしょ!?」 「いや、変わらねぇーなと思ってさ」 「それどういう意味っ、」 「ははは」 笑って誤魔化すつもりらしい。まあ、いいか。 「あー、未来は遠いなぁ!」 「は?何の事だよ」 「んー!何でもなーいっ」 一年前、千昭はタイムリープで未来へ帰った。本来いるべき場所へ。 我慢してた訳じゃなかった。 けれど、ちょうど一年目のこの日に、どうしてか体調が悪くて。 気が付いたら学校を飛び出してて。 追ってきた功介に散々怒られて、 「お前には受験生の自覚が足りんっ」とお説教されて―――、 でも最後は何も言わず泣かせてくれた。 忘れるなんて、 きっと一生かかってもできないから。 「功介ーっ!帰るよー!」 「おいこらっ、その前に学校寄ってかなきゃ行けないだろ」 後ろで慌てる気配を感じながら、勢いよく土手を駆け上がる。 吹っ切れた、わけじゃないけど、なんだかすっきりした気分だ。 「絶対、行くからね」 いつか、どんなに遠くても。 遥か彼方の未来でも、この心が千昭に届く事を願ってる。 |