夏は暑い、そんな事は当たり前だ

   夏なのだから、





   跳躍



「だぁ〜〜〜っ!!暑いのだっ!」

机にへばりついていると思ったら、次の瞬間勢いよく叫びだした劉輝に、彼と同じ部屋にいた二人は視線を交錯させた。
そして一人はそのあまりにも尤もな発言に苦笑し、もう一人は、完全に切れた。

「暑いぞぉ、なんでこんなに ・ ・ ・ ・ ・ すみません。」

その先を言ったら殺す、という無言の命令は確かに伝わったらしかった。劉輝はしゃんと背筋を伸ばしそして縮こまる。

「まぁ仕方ないよ。ここまで暑いとさすがに、ね。」

「そうなのだ。」

楸瑛の助け船に乗った言葉をすかさず蹴落とす。

「夏だからな、暑いのは当然だろう。」

馬鹿な事言ってないでさっさと仕事しろ、仕事。 と言ってやると目の前で(暑さのため)頬を赤く染めた少年は、怯んで俯いた。

「うぅっ、そう言う意味ではないのだ。」

半べそ掻きながら、ついでに言うと汗もダラダラと掻きながら、 それでも仕事を再開した上司兼後輩に絳攸は気づかれないように溜息を吐いた。



さっきはああ言ったものの、自分とてこの暑さにはかなり参っている、 否、むしろ文学部員の典型である俺がこの3人の中で最も暑さに弱いのではないだろうか。

「絳攸、大丈夫?」

心配そうにタオルを渡す同僚に、大丈夫だ、と顔も見ずにそう返す。
振り向いて見たところで、こいつの心配を煽るだけだ。それくらいの顔をしている自覚は、ある。
この中で唯一、まだ飄々としている男は「そう、」とだけ呟いた。

「早く直ると良いね、エアコン。」

「あぁ、」

「まったく、なのだ。」

妙にハモって返してしまった言葉に、またやつが苦笑するのが分かった。

一昨日、いつの通り正常に稼働していると大して気にしたことのなかったエアコンが壊れた。
執務室だけではない、この学園全部のが、だ。
年中、季節を問わず常に学業やスポーツに最適な温度を維持し続けている事への弊害が、 明るみに晒されたと言っても良い。
昨日から授業中また放課後と、気分の悪さを訴える生徒(主に文化部に集中していた)が続発し、 緊急会議まで開かれて、空調設備の即時復旧が決められた。
今年一番の猛暑、などという言葉がテレビで踊っていたのもそれに拍車をかけたのかも知れない。

カタンという音、振り向くと楸瑛が席を立っていた。

「楸瑛、」

どこへ、と少しきつい目で問う。
こいつがこの状況の俺と会長を放っておいて誰かと(例えば、取り巻きの女子達と)遊ぶとは思えないが、 その可能性を完全に否定させてくれない目の前の男が憎らしい。
唯の挨拶程度だとは分かっていても、一々揺れてしまう俺の心はどうなるのか。
睨まれる要因を察したのか、楸瑛は苦笑を深くした。

「心配しないで、愛しい人。変な寄り道なんてしないから。」

「誰がっ、・ ・ ・ ・ 」

「ここままじゃ、君も会長殿も熱中症で倒れかねないからね。」

何か差し入れを買ってくるよ、何が良い?

途端に「アイスッ!」という声が響く。
発信源を見ると、そいつは先ほどまでのだらけぶりが嘘のように輝いていた。

「う〜ん、まさに水を得た魚、だね。喜んでもらえて嬉しいですよ。」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

馬鹿の現金さに舌打ちしたくなったが、どうにか寸でのところで止めた。

「絳攸、君は?」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 何でも良い。」

舌打ちしなくて、良かったと思う。
最終的に俺もこの馬鹿と大して変わらないのだから。

「分かった、じゃあ行って来るね。」

そう言い、手を振って出ていった楸瑛の背中を見送る。
と、後ろから聞こえた声に思わずばっと振り返った。
案の定そいつは酷く楽しげに笑っていて、居心地が悪くなってふいっと顔を逸らした。

「嬉しそうだな、絳攸。」

「はっ? ・ ・ ・ ・ なん、で知って、」

言ってしまってから失言に気づいた。

「えっへん!当然なのだ!
余は二人の上司で、大切な右腕達の恋の行方を応援するのは使命みたいなものだぞっ!」

それにあれだけイチャイチャしてれば、誰だって気づく!!

「うっ、五月蝿い!さっさと仕事しろっ!!」

怒鳴ってみたところで顔の赤みは誤魔化せない。
俺の顔を見て、むふふっ、としたり顔で笑われるのは、 例えそれが真実だとしても決して気持ちの良いものではなくて。

「あの常春が帰ってくるまでにこれ全部終わらせたら、休憩させてやる。」

「なっ!狡いのだ、絳攸!そなた達だけ逢瀬を満喫す ―――― 」

「なんか言いましたか、会長?」

「いえ、何でもありません。すいませんでした。」

一番近いコンビニは自転車で往復5分もかからない。

  釘は指しておいたからな、本当に寄り道などしないだろうし、

ならば、これくらいの意地悪は、許されるだろう。
最初よりもさらにしょぼくれて机に向かう年若い上司に、静かに微笑んだ。






劉輝って、王様じゃないのに‘余’でいいのかな?
と思ったので、後で変更するかも知れません。

くっついてます、現代パラレル(略:現パラ)で告白編書いてないのにっ!!
なんか既にくっついた後を書いてしまいました。
だって、このサイトほぼ全て片思い同士でなかなか進展しないんだものっ
背中押したくもなりますよ、仕向けてるのも私だけども。
いつか告白(できれば楸瑛から)が書けたら良いです。

date:2006/11/20   By 蔡岐

宿花 , "跳躍" …「何でもありな100のお題」より 】