黎深×百合姫 (&楸瑛×絳攸) , 〜穏やかに穏やかに星霜を重ね 緩やかに緩やかに世界は回る〜 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 「全く!あの、藍家の若造っっ!よくも、・・・・・・・」 朝廷で氷の長官と恐れられ、自信の部下兼養い子に何度催促されようと決して仕事をしないことで有名な (一部例外はあるが、)男、名門紅家の当主、紅黎深は珍しく彼の友人 (この場合、相手もそう思っているかどうかは関係ない)や敬愛する兄の前以外で、感情を露わにしていた。 場所は、貴陽の紅本家別邸。 その一角に設けられた小さめの、しかし品の良い室で、真っ昼間から酒を煽り愚痴っているのだ。 ちなみに、気分が乗らないという理由から出仕はしていない。 しかも事後承諾という点が唯我独尊な吏部尚書らしいところなのだが・・・・・。 傍目にはほとんど分からないが、今、紅黎深は落ち込んでいるのだ。しかもかなり深刻に。 「藍家、というと藍将軍のことですか?」 少し揶揄の混じりの弾んだ声音に、我知らず黎深の眉間に皺が寄る。 室には黎深ともう一人、向かい合う形で女性が一人座っていた。 朝から黎深の自棄酒に付き合っていたにも関わらず、彼女には全く酔いの兆候が見えない。 その事も黎深の機嫌を損ねる原因になっているのだが、当の本人は気にする様子もなく。 すっかり駄々を捏ねる子どもと化した主人に、ここ最近何度言ったか分からない台詞を再度突きつけた。 「良いではありませんか。楸瑛殿と仲良くなられてからの絳攸殿は、とても生き生きしています。」 「それが気に入らないんだっ!」 「何故です?絳攸殿に幸せになってほしく無いわけでは、ないでしょう。」 「うっ・・・・・だが、それとこれとは別だっ、だいたいなんで、よりにもよって・・・。」 「確かに、藍家直系の方ですから。色々大変なこともあるでしょうが。」 「ふんっ、あんな目障りな男共の弟などに、絳攸を任せられるかっ!!」 そう叫んだ黎深に、彼女はまさに『にっこり』、笑いかけた。 「けれど、大丈夫ですわ。なにせお二人には愛がありますからっ♪」 「なっ、 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・、」 その言葉に文字通り絶句した黎深に、彼女はトドメとばかりに急所を突く一撃を繰り出す。 「邵可様もお二人の仲睦まじい様子に、とても喜ばれてましたし、」 クリティカルヒット、黎深にとって邵可の言葉と心情ほど優先するべきものは他にない。 「あっ兄上ぇ〜〜〜っ」 涙目になって、今頃府庫にいるだろう兄に叫び続ける男は、 彼女がいつ・どうやって邵可に会うことができたかにまで頭が回っていない。 天才と呼ばれる頭脳を駆使すれば、一発で分かりそうなものだが。 「黎深様、絳攸殿達が挨拶に来たら、ちゃんとお茶を出してあげるんですよ?」 門前で切って捨てる姿が、ありありと想像できて、窘めるように言う。 見た目にも(実際中身も)完全に違う次元へ行ってしまっている夫には、届いていないのだろうけれど。 その様子に、ふぅ、と軽い溜息を吐いて。 付き合いきれないと、言うように途中から水へとすり替えて置いた酒瓶のそれに腕を伸ばした。 【宿花 ,"穏やかに穏やかに星霜を重ね 緩やかに緩やかに世界は回る"】 2006/09/21 By 蔡岐 |