楸瑛×絳攸 , 〜 唯傍にいることの幸せを 〜 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 「ねぇ、絳攸」 先ほどから何度と無く俺の名を呼び、 目の前で(俺は相も変わらず残業をしているのに)にこにことしている男など無視だ、無視。 返事など返そうものなら、余計にこの万年常春頭をつけあがらせる。 のに ・・・・・・、 「・・・・・・・・・・なんだ、」 何度も同じ墓穴を掘って知っているはずなのに、何故また引っかかるのだろう。 こういう時、「俺は本当は馬鹿なんじゃないか?」と、本気で思ってしまう。 けれど、無視し続けるにはこいつの表情は心臓に悪すぎる。 「否、なんでもないよ。」 じゃあ呼ぶなっ!、叫び出しそうになる自分を何とか、鉄壁の理性で押しとどめる。 ここは俺やこいつの自宅ではないのだ、 吏部の最後の希望の名にかけて絶対に一時の感情に流されるわけにはいかない。 「ただ、ね」 そこで言葉を切ったやつの顔は、残念ながら膨大な書類で見えなかった。 知らぬうちに耳をそばだてている自分に心中で言い訳をして、言葉の先を促した。 少しの沈黙の後、鼓膜に届いた言の葉は、 素直でない俺にはとても黙って聞くには堪えないものだったけれど、 けれど決して嫌ではないものだった。 ― ただね、・・・・・“幸せ”だなと、思ったんだよ ― ― 君に会えて、君と今こうしていることが、 ― ― どうしようもなく幸福なんだ、とね ― そう言って笑んだ楸瑛は、常の巫山戯た態度や、 武官時の鋭利な表情とはかけ離れた、本当に穏やかで綺麗な光を纏っていて。 俺はすぐに目を逸らしてしまった後、少し、ほんの少しだけその事を後悔した。 〜 End.
【宿花 , "唯傍にいることの幸せを"】 2006/09/20 By 蔡岐 |