こんな馬鹿みたいな時間が 何処までも続けばいいと、



何もない部屋でひたすら座り続けて、もう既に2時間が経過していた。
誰も受け付けにこない真っ昼間。
今のこの状況が俺の自業自得で、尚且つこの処置がみんなのささやかなプレゼントであっても、 やはり暇なのことには違いないわけで。

(あ〜暇だぁ。)

ホント暇で死にそうだ。
心遣いはすごく嬉しいけれどはっきり言ってありがた迷惑だ、どうせならもっと別の日にしてほしかった。

「抜け出そっかなぁ」

物騒なことを呟いてみる。
出来ないことが分かりきっているからこその、せめてもの抵抗。
本当なんて仲間思いなんだろう俺。

残念ながらそんな愉悦は一瞬にして吹き飛ばされたが。

「何しょうもない事呟いてんだよ。」

「なっ、サスケ!」

あまりに(もしかしたら俺以上かもしれないくらい)この場に合わない人間の唐突な出現に大声を上げてしまう。
けれど俺の驚きなんて全く意に介さず、サスケは俺の顔を覗き込んでふてぶてしく口の端をつり上げた。

「よう。元気そうだな、ウスラトンカチ」

「お前それ言いに来たんだろっ!!」

「決まってんだろ。」

はんっ、と鼻で笑ってドサッと書類の束を机に投げおく。

「報告書くらいまともに渡せってばよっ!」

「っせーな、判子。」

「ムキーっ」

マジでどこまでも腹立つ奴だ。
けどそんなことで職務放棄はしない。
わざわざ俺の代行で任務に就いてくれたイルカ先生、つまりこれは元は先生の仕事なわけで。

(絶対やり遂げてやるってばよっ)

初っ端からサスケと揉めてました、なんて悔しすぎる。

(サクラちゃんになんて言われるか…)

と、最終的にはそこに行き着く訳だが。

「相変わらずムカつくやつだってばよ!」

一体何週間貯め込んでいたんだろう。
めくってはポンっと印を押し、押してはまためくり。
見間違いじゃなきゃ1ヶ月前合同任務の報告書らしき物もあったような。

(こいつってばホントにこーゆー事はずぼらだよな。)


戦闘の中では五月蝿いくらい、相手弱点とか見極めてから動けって言うくせに。
俺はそういうのマジで苦手だから丁度良いのかもしれないけど。

「……なんだよ。」

「や、別に〜。」

知らずじっと見てたらしい。
サスケは何故だか居心地悪そうにふいっと横を向いた。

(ふーん)

どうやら珍しいことに、この無神経男が恥ずかしがっているらしい。

サクラちゃんやカカシ先生の半ば脅迫めいた勧めで来たのか、 イルカ先生の頼みで足を運んだのかは分からないが、…悪い気はしない。

(ニシシシッ!)

普段すかしているサスケが、存外に熱くて心配性な事を知っている人間は結構少ない。
本人に言わないのは数少ないこいつの弱みに知っている優越感と、 知られたくないだろうサスケへの配慮も、ほんの少しだけ。

「ほいっ!」

既に押し終わった書類を渡す。
本来なら俺が預かって上に届けるのだが、 あいにくこいつの持ってきた物の殆どは一般受付に渡すやつじゃなかった。

「早くばあちゃん所にもってけ!」

「いいじゃねぇか、帰ってきた時点で任務成功だろ。」

「そーゆー問題かってばよっ。」

(はぁ〜)

言うだけ無駄だと分かっていても口を出す自分も、とっくにどうかしてしまってるんだろうか。

フロアには相変わらず俺とサスケの二人だけ。
新たに人が来る気配もない。

「あ〜っ!暇!」

「‥語彙の少ない奴。」

「何だとーーっ!!」

ぼそりと呟かれた言葉に、頭が意味を理解する前に口が動いてた。

(やっちまったー)

後で悔いるから後悔って言うわけで。
けど売られた喧嘩は買わないと俺じゃないのも確かで。
仕方なく(って事にしとく、俺のプライドのために)こいつの故意の喧嘩に乗った。

(なんか最近、アイデンティティで悩みまくってる気がするってばよっ。)

でも、………少なくとも、もう暇ではなくなった。
その事には、本のちょっぴり感謝してる。


date:2007/05/21   by 蔡岐

ユグドラシル , "こんな馬鹿みたいな時間が 何処までも続けばいいと、 何度も願っていたなんて知ったら、あいつはきっと腹を抱えて笑うんだ" …「男子学生の友情で10のお題」より】