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散った桜、雨上がりの世界



(あ〜、今年も空が高いってばよぉー)

いつものように山中花店で買った花を片手に持ち、
里を一望できる断崖にある小さな丘の上にそれはあった。
今日、毎年この日だけ俺は、俺たちは、かつての下忍第七班として集まる。

4人のうち、一人だけが永遠にかけた第七班だ。
それでも俺たちにとってあの時代は決して忘れることは出来ないものになっていた。

俺にとっても、サスケにとっても、カカシ先生にとっても、

……そして多分、きっとサクラちゃんにとっても。


(そういやぁ、サスケってば昨日まで仕事入ってたってばよ、)

上忍になってそれなりに危険な任務も何回もこんなしてきた俺たちだ。
一日だけ、ですむ任務ばかりであるはずがなく……。

現在、木ノ葉の里一番の出世頭であるサスケは、ちょうど一週間前から国外の任務を命じられた。
内容は黙秘。
『黙秘』という時点である程度想像はつくが、 それを安易に口に出してしまえるほど俺ももう子どもじゃなくなった。
小さい、本当に『子ども』だった頃、大人になるって事はいろんな事を知ってて上手にできることで、 俺たちは競って大人になろうと足掻いていた。

(そーいや、最初にそれに気づいたのもサクラちゃん、だったよな、)

アカデミーの中でも抜群の頭を持っていたサクラちゃん。
それは成長していっても変わらず、シカマルとは違う意味で『頭を使う忍者』になっていた。
最初に『大人になる事』の真実を知ったのも彼女だ、サスケではなく。


いつの間にか見えていたまだ咲きかけの木。

この小さいながらも眺めが開けて数倍大きく感じられる丘のちょうど中心の位置に、それは存在する。
いつから、なんてことはわからない。
ツナデのばっちゃんやエロ仙人も知らないというのだから、もう木ノ葉に理由を知る人はいないだろう。
けど、俺達にとってみれば好都合だ。

「あ〜、やっぱし俺が最初か、」

なんとなく予想はしていたが、やはりサスケもカカシ先生も任務が長引いているらしい。
今頃二人とも焦ってんだろうなぁ、と思いながらも、さして心配はしない。
あの二人も身を案じるなんてそれこそ全く持って無駄なことだし、 『今日』という3人で決めたタイムリミットにも、 なんだかんだ言いながら彼らは一度も遅れたことはなかったから。

(うーん、でも、遅れるなら先にいの達に来てもらえば良かったってばよ……)

ただでさえ毎年多忙な時間をおして待ってもらっているのだ。
事前に分かっていたのだから、今回ぐらい彼らに譲ってあげれば良かった。
まぁ、今更後悔しても遅いのだろうが……。



日は着実に昇りつつある。

その時、

「よぉ、ウスラトンカチ」

どこからかヒュンッと黒い影が表れたかと思うと、その影がスッと俺の背後にたった。

「遅れといてその言い草は何だってばよっ!」

「ツーマンセル組んだ相手が悪かったんだよ、」

微妙に言い訳じみたこと(俺としては間違いなく言い訳だ)を悪びれもなく言い放つ姿は、 久しぶりに会っても全く変わらないサスケだった。
言葉は素っ気ないが急いできたことが分かるぐらい、 適度に汗を掻いているサスケの手には、俺が買ったのと同じ名前の花が握られている。

「カカシはどうした?」

「……まだ、来てないってばよ、」

「いやぁ〜、ごめんね。待った?」

「カカシ先生っ!」

噂をすれば影、ってことわざ意外とホントだったんだ。
こちらも遅れてきたというのに全く謝罪の色もない声でのんきに告げてくる元担当上司に、 半ば怒鳴るようにして名前を呼んだ。

「あはは、ごめんごめん。予想外に仕事が長引いちゃって、さっ」

「どうせあんたがまた集合時間に遅れたんだろ、」

「サスケ、……お前、ほんと可愛くないね」

「あんたに可愛いなんて思われたらお終いだな、」

放っておけば今すぐにでも勃発しそうな冷戦の気配に慌てて間へはいる。

「もう、二人とも!まず花っ!」


そういって大樹の根元にいのに包んでもらった小さな花束を置いた。



 サクラちゃんが好きだった花、『桜』と同じ名を冠する小さな小さな……。
それを木の前の小さな尖った石の前に置く。



とても高い高い空の日だった。

春先だったというのに凄く寒くて、みんなして手を擦り合わせて愚痴を言い合っていた。
俺達下忍の中からかけがえのない人が消えたのは本当に突然で。
俺はただ呆然と、啜り泣くサクラちゃんのお母さんの後ろで突っ立っていたと思う。
いのはバカバカッとひたすら罵っていた。
アスマ先生が殉死してまだ一年も経っていなかった頃で、その時現実は無情なんだと誰もが思った。

サクラちゃんが死んだのは、ここじゃない。
けどそれから一年して、それまでてんでバラバラで連絡も取らなかった俺達は急に思い出したようにここで揃った。

それからだ。
普段は会うこともほとんどない俺らが、毎年この日だけは3人一緒で此処で集まる。
最初、サスケはかなり渋ってたけど、何度も説得を重ねて (シカマルにどうやって落としたんだとか、脅迫の仕方なら教えて欲しいとか言われたけど、純粋な説得だってばよっ)、折れさせた。
里に復帰した自分と入れ違いになっちゃったことであいつも色々と悩んでたらしい。

毎年毎年、他の誰も近寄らせずに俺達はここで彼女と語り合う。
別れはいつも突然で、なーんとなく気が済んだら帰る、みたいなかなりアバウトなもんだけど、それでも俺は満足だ。
ちなみに今日は日が西に入り始めてお開きになった。

(あ〜、いのやヒナタに怒られるってばよぉ)

要領よく消息不明になる二人に代わって、俺が毎年説教される。
なんかめちゃめちゃ悔しいし悲しくなってくるけど、それでも俺はそういうのもあわせて幸せに生きてるんだろう。



今朝、花曇りだったからきっともうすぐこの桜の木も咲き始めるだろう。
そうしたらここはとても美しくなる。
……見には、こないけど。

夕日が空を染め雲を染め、丘も里も何もかもを朱く覆い尽くしてゆく。
空は相も変わらず高くて、目眩がするほど綺麗で、 ああそういえば昔夕暮れが好きだと言ってたっけ、と朧気な記憶がよみがえってきた。

なんでなんでっ、とその時は理由が分からず訊きまくってた様な気がする。
俺にとってみれば全てが終焉に向かうような夕焼けより、希望の持てる朝焼けの方が好きだったから。
……子どもの考えだと、今は思う。
いつかは明ける夜より、いつになったら終わるのか分からない昼に身を置く方が、辛い時もあるから。




「また、……来年来るってばよ!」

そう言って俺は歩き出す。
『サクラちゃん』がいるこの場所に背を向ける。
暗くなった東の空へと丘を下って、やがて再び訪れた闇に身体を沈めてゆく。

それでも、俺達は来年にはまた3人でここに来るのだろう。
予感ではなく、確信でもなく、けれどその安易な考えが俺の頭にこびりついて離れない。


date:2007/01/23   By 蔡岐


Lanterna , "散った桜、雨上がりの世界" …「始動と誘惑と別離の春」より 】
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