さわさわと、買ってきた笹が揺れる。 その下で、長い紫苑の髪を靡かせて鼻唄を歌う幼馴染みは相変わらずで。 俺は密かに微笑んだ。 紫の星空と、望みの行方 「さ〜さ〜のぉ〜はぁーさぁ〜らさら〜…」 「へたくそ」 「将臣くん!」 驚いたように振り向き、すぐさまムッとした表情に変わった望美の頭に手を置く。 そのままぐしゃりと髪を掻き混ぜると、ぎゃーっと色気のない声を上げる。 望美はぎろり、と俺を睨み、頭に置かれた手をどうにか退けようとする。 また無駄な事を…。 元凶が俺だなんてことは隅にでも置いておいて、悪足掻きをする望美を呆れ半分、おもしろ半分で見下ろす。 「もうっ、重いよ将臣君!退ーいーてーっ」 「ん?何だ、この程度で音を上げるのか、白龍の神子様は」 「本当に重いんだよ!脳が潰れるっ細胞が死んじゃうっ」 はは大丈夫だよ今更だから、と口に出せばその瞬間拳骨が飛んできそうな事を考えて、余裕顔で口角だけ上げた。 そんな俺を、望美は胡散くさいと言うような目で見てくる。 「将臣君、もう手遅れだとか思ってるでしょ」 「…いや?」 「嘘!顔に書いてあるよ!」 「そうかぁ?」 「将臣君!!」 「はは、悪い悪い」 半笑いで告げる俺に、もうっと憤慨したように言い、それでも一つ息を付けば大概望美の怒りは収まる。 今回もそうだったようで、はぁーっと嫌にでかい溜息をはく。 それから、おもむろに月に向かい立てられた笹の天辺を見上げる。 「今年は会えたかなあ、」 ――逢えていたら良い―― 幼馴染みがそう思っているのは歴然で、なおかつ「誰と誰が?」なんて今日という日に夜空を見上げていて、わざわざ聞くのは野暮ってものだろう。 だから、俺は敢えて曖昧に…。 「さあな」 と、わざと望美の願いとは逆の事を言う。 「もー!将臣君ってほんとに夢がないねっ」 「そうかぁ?」 「そうだよ!一年間待って一度も逢えないなんて悲しすぎる…」 「去年、大雨だったから2年越しだな」 「だから…余計に、出会って欲しいよ」 自分の事でもないのに、今にも泣きそうな顔をする望美に、俺はもう一度頭を撫でながら苦笑する。 本当にこいつは、感受性が豊かでいつも突拍子もない事を言いだして…。 マジで呆れるほどのお人好し。 だが、そう思う俺こそ、「この星空の上にいる奴らの願いが叶えばいい」だなんて、馬鹿な事を夢見ている。 頭上を見上げ続ける望美の髪を、さらさらと梳く。 ん?と望美は首を傾げて俺の方をむく。 俺は、にぃっと歯を見せ笑って、そのまま勢いよく望美を抱き寄せる。 「将臣君!?」 「願い続ければ、いずれ逢えるさ」 「え」 「だろ?望美」 望美は、驚きにきょとんと大きな瞳を見開く。 その頬にかかる髪をはらうと、ぴくりと眉を震わせた。 そして、お互い、静かに目を閉じた。
date:2009/09/16 by 蔡岐
|