…解れよ、ばか 「暇ー」 「ちょっと待て」 将臣君の部屋の中、30分前のこの会話以後、私達は沈黙したままだ。 何!? 将臣君が「望美、今日来いよ」って言ったから来たんだよっ なのに、私が入るとどうしてそうそうに雑誌なんて読んでるの! 失礼だよ、横暴だっ。 しかも、ずぅーっと将臣君の背中に凭れてるのに反応一つ返してくれないしっ。 そろそろ私も堪忍袋の緒が切れそうだった。 だいたい「待て」って。 私は犬じゃないよ! この間、「彼女」になったばかりの私にむかってこの扱いは酷くない!? 色々思っていても、将臣君には言えない。 思いついた事をポンポンと口に出すことができなくなってしまった、昔は、 つい2週間前までは、何でも言い合えたのに……。 歯がゆく思う。 彼女になった事で、失ってしまったものは意外に多い。 将臣君の考えも、そう。 前までは、顔を見て声を聞けば幼馴染みの特権でなんでもわかったのに。 還内府と源氏の神子に分かれていた時でさえ、心は一つだったのに。 ふいに、襲われる絶望的な不安がおそろしい。 我慢できなくなって、とうとう声を出した。 「ねぇ、将臣君まだ?」 催促する、声であったり背中の重圧の具合だったりで。 「……」 将臣君は何も言わず、雑誌のページをめくる。 ……これは、無視されてる? その考えに思い至った瞬間、ついにぷちりと切れた。 ぐるり、と体を起こし将臣君の背中に覆い被さると、首に腕を絡め耳元で怒鳴る。 「将臣くっ……ん!?」 …………あ、れ? 何、この体勢。 上にいる将臣君を見上げると、にいっと笑みが返ってきた。 将臣君の大きな手が私の頬に添えられ、私達の顔が近づく。 「やっとかよ。望美、お前結構我慢強いのな」 「は?」 何を言っているのかさっぱりだよ。 ぽかーんと口を開けて、目を見開く私を、将臣君は上から悠然と眺めていた。 私が将臣君に抱きついた瞬間、将臣君は呼んでいた雑誌を放り投げ、私の方へ向き直った。 私を両手で抱え上げ、そのままベッドに放り投げたのだ。 そして、今現在、将臣君のベッドで仰向け状態の私の上に、将臣君がいる。 これって、ひょっとしなくても、誰かに見られたらまずい状況じゃあ……。 「10分程度で痺れを切らすと踏んでたんだけどなぁ」 やぁー意外意外、と笑う将臣君を凝視する。 つまり、わざと私を放置して仕掛けるのを待ってたって事!? 「酷いよ、将臣君!わざと無視するなんてっ!」 「無視じゃねぇ。言っただろ、お前の方から誘ってくるのを待ってたんだよ」 しれっと将臣君は言ってのけた。 「それを無視っていう…………誘う?」 なんだか聞き捨てならない言葉が混じってるよ。 「違うのか?お前から抱きついてきたじゃねぇか」 将臣君は少し眉間に皺を寄せて、顔をさらに近づけてくる。 もう少しでお互いの鼻があたりそうな位置だ。 「そ、そうだけど」 って、将臣君近いよっ。 ぐっ、と将臣君の引き締まった体が押しつけられる。 「ま、まさおみ君……?」 恐る恐る名前を呼ぶと、間近で将臣君の笑い声が聞こえる。 み、耳元で……絶対わざとだ。 「なぁ、望美。俺がほしくねぇ?」 「え」 耳朶にふっと将臣君の吐いた息があたって、ぞくっと背中に痺れが走る。 ほしい? 私が、将臣君を? それって、やっぱり「そういう意味」だよね。 「どうなんだよ、望美」 「ぁ……ぅっ!」 左側にある将臣君の頭は、少し移動して私の首筋をぺろりと嘗めた。 思わず変な声が出て、カッと顔が熱くなる。 「ま、将臣くんは、どうなの?」 必死に反撃を試みる。 その瞬間の将臣君の顔を見て、私は瞬時に後悔に襲われた。 「ほしいに、決まってんだろ」 声が私の耳に聞こえた時には、すでに私の唇は塞がれていた。 |