コイントス date:2006/08/10 「っくしゅんっ」 へっ? 後方から聞こえた小さなくしゃみに、青子はそれまで見ていたテレビから思わず顔を上げてしまった。 そして勢いよくソファーにもたれ掛かっている自分の幼馴染みを仰ぎ見た。 「今のくしゃみ、快斗?」 「ぅ〜あ?・・・当たり前だろ。俺とおまえ以外今この家のは誰もいないよ。」 母さんはさっき、夕飯の材料買いに行っただろ。と呆れながら言われる。 当たってしまった、否、当たって欲しくなかった事実が見事的中し (当たり前なんだけど)青子は何と言ったら良いか分からなくなった。 「だっ、だよね・・・。」 なんとかそれだけ返し、青子は快斗を見たまま押し黙る。 うっ嘘、本当に!? だって、・・・・・・・・・快斗があんな可愛いくしゃみをするなんて そう青子の混乱の原因。 それはさきほどの快斗のくしゃみ、そのあまりの可愛さだった。 清楚で可憐なお嬢様のような、お伽話の中のお姫様のような、漫画の中のでしか見たことがないようなくしゃみ。 それをよりにもよってあの!あの!いつも青子をからかって遊ぶ、 わがままでスケベな快斗から発せられたと、どうして信じることが出来ようか。 そりゃあ、マジックをしてる時の快斗はキラキラしてて格好いいけど、 それでも、やっぱり似合わない。絶対に似合わない。 「なんだよ、青子。さっきから俺の顔じろじろ見て。何か付いてる?」 快斗がジィ〜ッと見られているのに不審を抱いたのか、そう言って顔を寄せてきた。 あまりにも唐突に、かなりの至近距離で覗き込まれて、青子は咄嗟に顔をそらしてしまった。 しまったっ! 今更気づいても後の祭り。 その証拠に快斗の顔はさっきとは打って変わって、にやにやしている。 うっ・・・ 「へぇ〜青子。俺、そんなに格好いい?見惚れるほど?」 「ちっちがうわよ!青子は別に・・・」 「ほぉ、さっきから俺の顔ばっか見てたじゃねぇか。」 「そっそれは!」 自分でも首まで真っ赤になっているのが、分かる。 からかわれているのに、それからうまく転ずる術を知らない自分が悔しい。 「っ〜〜〜バカ快斗!!」 その言葉を言うことが、自分の中での最大限の抵抗だった。 さすがにちょっと苛めすぎたかな、と快斗は思った。 ただあまりにも青子が無防備で。しかも少し眉を寄せた何とも言えない表情で自分を見つめていたものだから。 仮にも自分と彼女は男と女で、しかも自分は青春も真っ盛りの高校生。 何もするな、という方が酷というもので。 間違っても、何かしてしまっては大変なので(後々、いろんな意味で)咄嗟に思いついた方法で青子の気を逸らせたのだ。 ったく、心臓に悪い これもそれも全部、あのガキのせいだっ! 青子が何に関心を示したのかは、最初から分かっていた。 というより、今朝、母が先程の青子と全く同じタイミングで此方を向いて、 『あら!随分と可愛いくしゃみねぇ。アニメでもなかなか聞けないわよ、そんなの。』 などと笑い混じり、冷やかし混じりで言ってのけてくれたので、嫌でも分かってしまったのだ。 あぁ〜〜っ!!くそっ!次は絶対に成功させてやるっ!! 実は昨日、世界を騒がせる某怪盗が、件の怪盗キラーと呼ばれる少年にまたもや予告した品を取り戻される、 という事件があったのだ。 その毎度お馴染みとなった二人の対決の場は、湖。 いくら夏とはいえ、ずぶ濡れ状態で長時間そのままでいればくしゃみの一つや二つ出ようというもの。 思った通り軽めの風邪をこじらせてしまった。 快斗の心の叫びのこんな事実が隠れていることを、青子が知るのは、もう少し先の事。 |