*





「Hey!てめぇら、partyしようぜっ!」

眼帯男の一言で、10月第5週の予定は決まった。


想いがまじわる夜



「まったくさっあの独眼竜ー!!提案するんなら最後まで責任持てっての!」

イチゴペーストをいつもより乱暴に掻き回しながら、突然パーティーを始めようなどと言い出した伊達をこき下ろす。
横から、彼の右腕で右目でもある人が、ホイップを泡立てながら申し訳なさそうに眉を下げた。

「悪いな。猿飛」

「いいえー。別に片倉さんが悪い訳じゃないし」

「佐助ー!!飾り付けが終わったぞ」

「了解、っと。んじゃ、ここの料理運んでくれる?」

「承知したっ」

居間では、ざわざわとせわしなく動き回る気配がひっきりなしにする。
そこへ料理を持っていこうとする旦那に「つみ食いしないでよー」と言うと、「せぬ!!」と返ってきた。
返事を聞きながら、ジャム状になったイチゴ入りのボールにバニラアイスを入れる。
料理はだいだい出来上がっている。
飾り付け組が、主にかすがちゃんと小太郎が尽力して、居間を始め庭まで綺麗に飾ってくれて、武田家の庭の木には、ジャック・オ・ランタンがくくりつけられていた。

……で、何であいつがいないのかなぁ。
料理組、飾り付け組に分かれ、準備している中に全ての発端の男はいない。
独眼竜は買い出しが終わった途端、姿をくらましてしまった。

『Trick or Treat!!菓子がほしけりゃ、しっかりおさんどんしとけよ』

何がトリックオアトリートだ。
菓子がほしけりゃ、ってお菓子作るの俺達だし。
あの男は何がしたいんだ、……せっかく。

「せっかく一緒で過ごせると思ったのに」

「ん?何か言ったか?」

「え。い、いや、何でもないよ」

思わず漏れた言葉は、幸い片倉さんには聞かれなかったらしい。
ほっと息をつき、後ろから聞こえてくる楽しそうな声に、心中で溜め息をついた。
本当に、ハロウィンくらいは二人だけでいられると思ってたのに。

御館様命で剣道一筋で独眼竜との決闘大好きだから。
融通が利かないくせに誰にでも馴染んで、大勢で居ることが大好きだから、家にいたって二人っきりになることなんて滅多にない。
お正月もバレンタインも七夕も、クリスマスも。
家にいて、クラスのみんなを呼んでどんちゃん騒ぎをして。そして、そのまま過ぎ去ってしまう。

……今日くらい。
そう、思ったって良いじゃん。
菓子か悪戯か。子どもの遊びにかこつけて、独り占めしたって良いじゃないか。


物思いに耽っている間も手は正確に動いていて、アイスクリームは出来上がっていた。
冷凍庫にボールごと入れ、手を拭き、片倉さんを見る。

「できたか?」

「はい。だいったい準備も終わったし。あの男も帰ってこないし、先に始めましょうか」

俺の言葉に片倉さんは手を洗いながら苦笑した。

「ああ。悪いな」

「いえいえ」

俺は首を傾けて片倉さんを凝視する。
独眼竜の尻ぬぐいはいつもこの人の仕事だ。
あの男も片倉さんに甘えているし、この人もその事を苦に思ってないいからいいんだけど。
片倉さんが俺の視線に気づく直前に、流しに視線を移し、そこに水を張る。

「……じゃあ運びましょうか」

張り切って出したはずの俺の声は、どこか溜息みたいだった。





「で。片づけも俺なわけね」

結局、唯我独尊独眼竜は、パーティーが終わっても返ってこなかった。
あいつ、マジで顔見たら殴り倒してやろう……!!
伊達の分の料理は、片倉さんが綺麗に取り分けて、冷蔵庫に入れていた。
バイトがある小太郎以外、ほとんどが2階に上がってしまい、1階には俺と旦那が残っている。

「手伝う、と言っている」

横から旦那が口を出し、手を出そうとするのを、はたき落として料理を片づけ終えたテーブルを拭く。

「あんたがやると、逆に荒れるでしょうが」

「そ、その様な事は……っ!」

「あるでしょうが!」

焦る旦那に釘をさして、台拭きを持ち立ち上がる。
ひょこひょこと後ろを突いて台所まで来た旦那に振り返る。

「なんですか?」

「…いや。佐助、何か手伝える事は」

「ありませんね。大人しく2階に上がっていてください」

「むっ」

不満顔の旦那を無視して流しの周りも拭きとる。
と、ぴくりと肩が揺れた。

「だ、んな?」

「手伝える事はないのか、佐助」

同じ事を聞いてくる。
けれど、耳の後ろで囁かれた言葉に、さっきと同じ台詞を返す事ができない。
息を詰めて黙った俺に、旦那は俺の身体をキッチンに押しつけ、身体を密着させた。
シャツがずり上がり、ステンレスの部分がお腹にあたる。

「ちょ、冷たいよ。旦那」

「佐助」

「…っ!!」

だから、耳元で喋るなぁ!
耳朶に息があたって、異様なほど心臓が激しく動く。
つか、なんで普段は俺が手を握るだけで破廉恥破廉恥うるさいくせに、今日はこうも積極的なのさ!

「だ、旦那……」

「違う」

え?
旦那は怒ったような声でそう言うと、ぎゅっと、腰に回した腕を強める。
ちょ、ちょーまじで待って。
この状況誰かに見られたらやばくない?やばいでしょ。

「幸村だ」

「は」

「幸村、だ。そう呼べ」

「ちょ、なんで急にそんな事を。あんた、気に入ったって昔……」

「昔の話であろう。今は違う」

腰に置かれた手は温かく大きく、熱が徐々に胸の中心へ迫り上がっていく。
茫然と、されるがまま、身体が動かない。
旦那は力をほとんど入れていない。
――――振りほどこうと思えば簡単なのに。

どうして、この身は動かない?



「さす」

「Hey!!」

旦那の息が頬に当たったとき、突然廊下とつながる扉が勢いよく開いた。
入ってきた人間は、見るまでもなく、声とあいさつでわかる。

「ん?……ほぉー、取り込み中か。悪かったな」

「政宗殿っ!!」

全く悪いなんて思っていない口調で旦那を茶化す独眼竜に、旦那は俺の真横で大声を上げた。
旦那、お願いだから耳元で怒鳴らないで。

「……耳が、キーンってなってるんだけど」

「てめぇもやる時はやるな。見直したぜぇ」

「そう思うなら、邪魔しないでくだされ」

「って聞いてないし」

そして、俺は本当に旦那の頭が心配になってきた。
お腹空いたからって、道端に落ちてるものを拾って食べでもしたんだろうか。
普通なら有り得ない言葉が聞こえる。

「佐助」

「ぅえ?」

「失礼な事を考えただろう」

「……鋭いね」

ひょっとして、誰かが旦那と入れ替わってるとか?
馬鹿げたことを考えてしまうくらい、今の旦那はおかしい。
政宗を睨むと、涼しい顔で笑っていた。
その余裕顔が余計に腹立つ。

「独眼竜。今までどこ行ってたのさ?あんたが、パーティーするって言い出したくせに」

「あぁ?お前らのために、俺が一肌脱いでやろうと準備してたんだよ」

何。そのはた迷惑な理由。
呆れていると、未だ俺の後ろにいた旦那がもぞもぞ動いて政宗の方へ近づいたので、俺は漸くシンクとの板挟み状態から解放された。

「準備?」

首をかしげる旦那に、政宗の笑みはさらに深くなる。
普段凶悪な笑顔しか見せない奴の満面の笑みって、どうしてこんなに気持ち悪いんだろ。
ああ、それよりこいつ返ってきたって片倉さんに伝えとこう。
俺が二回に声をかけようとすると、それより早く政宗が口を開いた。

「これだよ」

「チケット?政宗殿、いったい何の……っ!!!」

言葉を切り、耳まで真っ赤に染まった旦那に顔に、俺の方がびっくりする。
慌てて近づいて顔を覗き込むと、ばっと視線をそらされた。
その様子に、俺は政宗を睨み付ける。

「独眼竜!あんた、旦那に何したっ!?」

「うるせーぞ、忍。チケット渡しただけだ」

その言葉に眉をひそめて、顔をそらしたままの旦那に向き直る。
黒い服の襟首からのぞく鎖骨まで仄かに紅くなっている。

「旦那?」

「Trick or Treat!菓子の礼だ。気張れよ、幸村」

意味深な台詞を残し、階段へ消えていった政宗の背中を睨み、すぐに旦那に目を戻した。
相変わらず真っ赤な顔をして、下を向いている。
件のチケットは旦那の手の中にしっかりと握り込まれていて、内容を見ることは出来ない。

「さ、佐助」

どもりながら、旦那が俺を呼ぶ。
ようやく顔を上げ、俺を見た旦那はまだ赤みが引いていない。
けれど瞳は真剣で、まるで戦に赴くみたいに鋭い。
気圧され、思わず一歩右足を下げると、旦那に勢いよく腕を掴まれた。

「佐助。その、冬休み、俺と共に旅行でも行かぬか?」

「え?」

旅行?旦那と?……まさか、二人で?
まじまじで見上げたまま固まってしまった俺に、旦那は気まずそうに目を泳がせる。
また紅くなり出した頬に比例して、腕を掴む力が強くなる。

痛い。けど、言ったらお終いだなぁ。
必死で逃げ出したいのを堪えているの見え見えな旦那に、これ以上刺激を与えてはいけない。

――――それに。

「ねぇ、『幸村』」

わざとにっこりと、珍しい部類に入る笑みを浮かべて旦那の顔を覗き込んだ。
思った通り、旦那は思いきり背をのけぞらせる。

「それって、二人旅ってこと?」

なんで、独眼竜がそんなチケットを旦那に渡すんだとか。
旦那が旅行のチケット見て、すぐに俺との旅を思い浮かべたのは何故だとか。
理由が頭をぐるぐると回るけれど。
それは取りあえず、隅にでも置いておいて。

まだ往生際悪くチケットを握りしめ、そっぽを向く旦那に思い切りもたれ掛かった。
自分で言い出したくせになぁ。

「幸村、『Trick or Treat!』お菓子をくれなきゃ、悪戯するよ?」

甘いものは好き。
パンプキンケーキもクッキーも、もう食べてしまった。
それでも、旦那からもらえるお菓子ならどんな味だろうと、どんな形だろうと構わないと本気で思う。
早く。早く。
政宗が提案したパーティーが不満だった俺には、その手の中に持っているお菓子が、一番ほしいものだ。

「……ずるいぞ佐助。さきほどは、」

どれほど頼んでも、俺の名を口に出さなかったのに。

そう、恨み言を漏らす唇を、俺のもので塞いで。
音をたてて離れた唇を見せつけるように、にっこりと笑って、幸村の右手に手を重ねた。
大丈夫か、ってくらい茹で蛸のように紅くなった旦那に笑う。

それから、少しだけなら独眼竜に感謝しても良い、なんて。
世迷い言を考えた。



date:2008/10/31   by 蔡岐