*





突風はいろんなものを運んでくる。



流れるなら、彩雲のように


その日、佐助は下校途中のスーパーで買い物をしていた。

「やっほー、しーちゃん」

「……珍しいね」

慶次がスーパーにいるなんて。
しかもこの時間に。

言いたかった言葉を飲み込み、無理に眉間に皺を作る。

「俺は、しーちゃんなんて呼び名、許可した覚えないんだけど」

「堅い事言わない言わない」

笑いながら見当外れな答えを返す慶次は、米粒ほども乙女の思考を分かっていないに違いない。
ああ、まつさんっていつも苦労してるなぁー。
一年上のまつ先輩には日頃から尊敬の念を抱いていたが、もはや崇拝に変わりそうな勢いだ。
大飯ぐらいの彼氏を持ち、さらにその破天荒な甥の食の世話までして、ましてそれが自らの幸せだとまで言い切る彼女の笑顔には、後光の光もかすんでしまいそうな気がする。

ま、何が言いたいかってぇと。
まつさんの爪の垢煎じて、一部のクラス男子に飲ませてやりてぇ!!
とりあえず、そういうことだ。
そうすれば、少しは家事の大変さが分かって、日頃の文句も減る気がする。

話は戻る。

「俺が嫌だって言ってるの」

「かわいいじゃん」

「どこが」

「え、忍ちゃんの方がいい?…言いにくい」

猿飛でいいじゃん。
思ってることは言わない、返される答えは決まっているから。

「苗字なんて他人行儀だし」

いや、他人でしょ俺たち。

「佐助ってのもねぇー、可愛くないし」

そりゃね、一般に女の名前じゃないし。

心の中だけでつっこむのが、慶次と話す時の癖になっている。
彼をまともに相手したら体力消耗が激しすぎる、という理由からだ。

一通り必要な物と、旦那と大将の嗜好品を籠に入れ終わると、レジへ向かう。
なぜか慶次もそれについてきた。

「ん?何か買うんじゃないの?」

「んー、まつ姉のお遣いはここじゃねぇから」

「……ああ」

一番梳いている右端のレジに並ぶ。
前にはちょっと少し痩せたおばあさんが会計をし、小銭を出している。

ここは、この近辺でもっとも大きなスーパーだが、賢い主婦、まぁつまり節約好きのご婦人方は、少し離れた商店街に買い物に行くことが、ままある。
特に魚介類を購入する時に。

「今日委員会だっけ」

まつ先輩は文化委員で、たぶん委員内の書記だったはず。
会議が終わる頃には、めぼしい魚は無くなっているだろう。

「そう、だから俺が代わりに、ね」

「ふーん」

ただ飯ぐらい、食費は前田家から出ているので実際は違うのだが、じゃないらしい。
ん?
ちょっと待てよ。

「なんで、スーパーにいるのさ」

後ろを振り返り見上げると、慶次は俺にまた笑い返した。

「しーちゃんの姿が見えたから」

「……あっそ」

冷淡に返すと、慶次は泣き真似をし出す。
笑い顔だからそれも全く効果なしだ。

「次の方ぁ〜」

「あ、はいっ」

呼ばれ、提げていたカゴを台に置く。
会計を済ませて辺りを見回すと、いつの間にか慶次はいなくなっていた。

「奔放だねー」

囚われることをしらぬ姿は、いっそ清々しい。
旦那に変なことを教えられるのは勘弁だけど、俺は決して慶次を嫌っちゃいないんだろう。
あれを心から憎いと思える人間も、かなり希少だろうけどさ。
そんなことを思いながら、店を出る。
西の空に傾いた日が黄色い光で、空を覆ってゆく。

さて、旦那が部活終えて、お腹グーグーッ鳴らして帰ってくるまで、後1時間ちょっとってとこだろう。
それまでの動きを頭で簡単にシュミレートしながら、帰り道を歩く。

たまには、風に付きあうのも悪くない。
なんて、絶対に本人には言えないことを思った。



date:2008/09/07   by 蔡岐

Lanterna , "流れるなら、彩雲のように"…「例えばこんな風に…の10題」より】