世界はその色一色に染まる 「……………………何、これ」 開口一番出てきた言葉はそれだった。 というか、それ以外に何を言えるというのか。 俺は、ただただ目の前のものを凝視した。 「紅葉だ」 いっそ清々しいほどきっぱりと言い切った幸村に、 そうじゃねぇだろぉとつっこむ人間は残念ながらここにはいなかった。 佐助は相変わらずそれを見つめた。 「佐助?」 可愛らしく(この表現が的確かどうかは置いといて)首を傾げた幸村に、 佐助はもう一度だけ質問することにした。 「……ねぇ、旦那。これは何?」 「む?分からぬか?紅葉だもみじ。綺麗であろう!」 正々堂々真っ正面から以外物事を考えない主に、佐助は久しぶりに心から頭を抱えた。 馬鹿だ馬鹿だと思っていたがここまでとは…………っ! 注釈をつけておくと、幸村は決して愚かではない。 手習いも人並み異常に良くできたし、剣術や槍術は言わずもがな。 ただ通常の人とは異なる感性を持っていることがまま(ていうか多々)あり、 しかも器用なくせに日常生活ではとことんまで不器用に成り下がれるという、 ある種あっぱれな性質を持っている。 要するに、賢いけど馬鹿、馬鹿じゃないけど阿呆、という部類に入る人間だ。 ちなみに、そう言う面倒臭い人間を佐助は変人と呼んでいる。 盛大な溜息をついて黙ってしまった佐助を幸村はゆっくりと覗き込む。 「さすけ?」 どうしたのだ具合でも悪いのか? 心配そうにそう訊かれれば、いくらなんでも (例え普段はお尻引っぱたいて大声で小言を言っている身であっても)答えないわけにはいかない。 しかも、主の懸念事項が自分ならば、余計にそれは早々に取り払わなければならない。 それが佐助の仕事であり、そう思わせるのが幸村だ。 「旦那ぁ〜、あのさ。……これ、どういうつもりなの?」 「ん?」 「いや、ん?じゃないくて!何これ、どっからこんないっぱい、てかどうやって持ってきたのよ」 現在、佐助と幸村の前には高々と紅葉が積まれ、小山を作っていた。 風流かつだだっ広い庭に、ではなく佐助用と割り当てられた部屋に。 これが幸村でなかったら完全なる嫌がらせだ。 そして、もちろん幸村がやろうが佐助にとっては嫌がらせだった。 「裏山から取ってきたのだ!苦労したのだぞぉ、何度往復したか」 にこにこと笑う顔からは苦労の後はまったく読みとれない。 大方侍従の目を盗みながらの大仕事を楽しんでいたんだろう。 「……………………で?」 「で?」 佐助はだからどうなのだ、という視線をなげた。 そんな事は佐助には何の関係もない。 誰にも言付けず屋敷から抜け出したことはこの際棚上げし、 紅葉を大量に運んだわけも自分に被害を被らなければどうでもいい。 「それがなんで俺様の部屋にあるわけー?」 それが言いたかった。 念願の言葉は呆気なく破壊されてしまったけれど。 「佐助に見せたかったからに決まっておろうっ!」 ああ満面の笑みが眩しい、 半月、国外任務から今朝ようやく帰還した疲労困憊&寝不足の忍に幸村の笑顔は逆効果だった。 その時、佐助の中の“何か”切れた。 「ふ〜ん、……あ、そう」 それだけいうと佐助はくるりときびすを返した。 長い不在の間に溜まった仕事を片づけなくてはならない、 ついでに新入りの指導とか今後の打ち合わせとか情報交換とか。 「あっ、そういえば大将に報告すんの忘れてたわぁ」 俺様ってばおっちょこちょい! 異常なテンションを自覚しながら敢えて無視して (ついでに背後で固まっている幸村も無視して)今日やるべき事を考えた。 「……さ、さすけーーっ!」 ようやく覚醒したらしい幸村が後を追った時には既に遅し。 仕事好きでお人好しの忍の姿はどこにもなかった。 |