Matto Dado




もがいた熱は懐かしくあり続けるだろう 手のひらに



青、
突き抜ける曇りのない蒼空……、
誰もが喜びの奇声を上げる中、
俺はただ一人日陰から恨めし、と遙か上空をねめつけていた。

風上から、法螺貝の遠鳴りが聞こえた。



『――佐助』

普段飄々としていて決して真意を覚らせないこの翁が珍しい、
最初の感想なんてそんなものだった。
当時の俺は、仕事以外の世間様の事情になんて興味がなかったし、
雇い主の方も仮雇いの忍如きにお家問題なんて知られたくはなかっただろう。
その意味でお互い利害は一致してたと思う。
忍としては何とも都合が良い話で、俺自身傲慢な武家に仕える気なんてさらさらなかったから、 これで良い、と勝手に思っていた。

『――真田家へ行け』

面食らった。
真田と言えば、武田に仕える智将の名ではないか。
外様にも関わらず信任も厚いらしい。
この間就寝中に殺した男が、気に入りの侍女との袴中に憎々しげに語っていた。

何で、と疑問符だらけに尋ねた。
師の狼狽しように釣られたのかもしれない。
名が売れている方ではない、
腕に自信はあるが、だからといって指名される理由はない。

――だったら、なんだ――

武田には今のところ手など出していない。
下手につついてよい尾でない事など誰もが知っている。
主の命令なら別として好き好んで追われたい奴はいないだろう。

『明後日、真田庄の屋敷に参る』

それは既に決定事項。
知らぬ間に彼らの張った網に掛かってしまった事に舌打ちした。
しかし、僅かな沈黙の後にうっすらと常人にはわからない程度に頬筋を持ち上げて。

『了解っと』

みとがめた師はあからさまに嫌な顔をしていたけれど。
そんな事はあの時はどうでも良かった。
ただ一方的に売られた喧嘩をふと買おうと思った。それだけで。

後に死んでも後悔仕切れない事になるにも関わらず。


date:2007/07/21   by 蔡岐

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