雨上がりの虹に永遠を願った、6月の間奏曲 雨が上がった。 そう表すのが正しいのかは分からないけれど。 旦那の中で永く続いた雨空は、梅雨の終わりと共にきれいさっぱり晴れ渡ったようだ。 「旦那ぁ〜」 「おお!佐助、今帰ったか!して?」 「うん、今のところ平和なもんだよ。 ま、どこも好き好んで泥濘に足を取られたくはないだろうし……」 2、3日の間、文字通り、全国津々浦々を駆けずり回り集めてきた情報は 以前とさしたる変化はなかったけれど、 それでも主の耳に入れておきたいことぐらいは多くあるわけで。 特にこの人に関しては好奇心旺盛と言うか、 ……子どもっぼさが抜けない性格から本当に些細な事でも聴きたがる。 詳しく言うなら各国の甘味情報などなど。 「ふむ、そうか。だが長くは続くまい」 「…………そうだね」 驚いた。 ちゃんと今回の偵察の意味を分かっていたとは。 「む、なんだ。某でもそれぐらいわかるぞ!」 「あっ分かりました?」 分からいでか、と鼻息荒く呟いた主。 なるほど、確かに妙なところで聡いこの人には昔から色々と困らされてきたか。 その忍泣かせ(俺にだけだったのかもしれないが)の旦那が、 どんな形であれこんな立派に成長したとは……、今更ながら驚きものだ。 (そうだよね〜、元服してもう結構経ってるし) 当たり前の事が今更ながらはっきりと感じられて、しかもそれを少し寂しいなんて思ってる俺がいる。 毒された、なら良い方で。 もし、誰よりも忍びであるはずの己の、内側から出てきたのだったら……。 「まずいなー……」 「何がだ?」 「いや、こっちの話」 旦那の傍にいたい。 それは紛れもなく俺個人の意志で。 けれど、当たり前になってしまった事実を実現し続けるためには、相当な努力がいる。 俺が旦那と在ることで得られる全てと引き換えにする程の……。 遠くの方で旦那が呼んでいる。 一瞬浮かんだのは痛ましいまでに主人に尽くしていた、かの女忍。 (ホントに、人の事全然言えない) 俺だって十分なほど過保護で主至上主義だ。 かっこ悪いから片鱗すらださないけど。 「佐助っ!!」 「あーっもう五月蝿い!耳元で怒鳴んないでっていつも言ってるでしょう!?」 「さ、佐助が何度呼んでも上の空だからであろう!」 俺の剣幕に押されながら、旦那は妙に必死に反論してきた。 (そうだけどさ) 「だからって何で泣きそうになってんのよ」 「なっ泣いてなどおらぬわぁ!!」 そう言ってる声が既に半泣き状態だけれど。 (世話が焼けるなぁ〜) これじぁ欲だの義務だの依然に、心配でおちおち一端に悩んでもいられない。 むやみやたらに敵陣に突っ込んでないかとか、朝はちゃんと食べたかとか、 寝るときお腹だして寝てないかだとか……。 考えてどっと疲れが出た。 (俺忍だよねぇ?自分で言うのも何だけど、武田軍随一の戦忍のはず…、) 「佐助っ!何時まで某を無視する気だ!」 「……俺様の存在について考えてたんですよ」 取りあえず、主とはもうしばらく共に過ごす事になりそうだ。 |