止めどなく振り落ちる葉は弧蝶を覆い隠し、 くちゅっ……っぁ…… 夜の帳が落ちた後、どこからか聞こえる卑猥な音。 しかし、いくら日課であるとはいえ、他に比べ非常に厳しい鍛錬に、適度を越えて疲労し、 夢の中でまで微睡んでいる兵達の中に、その非日常に気づく者はいなかった。 「……ああ!……んっ…ふぁ…………っ」 「声を殺すな、」 言いながら佐助の口を覆う腕を退けて、もう一方の手は執拗に胸の突起を弄び、 仄かに紅く熟れた果実をより一層際立たせる。 「は……だ、めぇ」 息も絶え絶えに懇願する声も受け入れず、幸村はひたすらに佐助の快感を引き出してゆく。 そこには、まだ少年の面影を残した愛くるしさも、 戦場で見せる、目を奪われんばかりの壮烈さもない。 誰に言われるまでもなくコロコロと変わる喜怒哀楽を直球で映し出す顔面に、 いまは佐助にすら何を考えているのか悟らせない、無表情というにはあまりにも悲しみの割合が強いそれ。 戦場で相まみえた武将達の何人がこの男を「真田幸村」だと認識するだろうか。 この行為が二人の間で成立してから閨の中で幸村が見せる唯一の顔がそれだった。 「だ、んなぁ……っ!」 ひゅっ、と佐助の息が詰まる。 幸村の左手が佐助の下腹部を弄ろうとする。 気づいて必死で押し止めようと佐助が腕を伸ばした、それをもう一方の腕ごとまとめて結い取られる。 全身が弛緩した状態では、下半身の力だけで屈強な幸村を押しのける事は不可能だった。 「ふぅん……はぁ」 「佐助は、往生ぎわがっ、……悪いな」 幸村の息もだんだん上がってきた。 じわり、と僅かに汗を滲ませる額、細められた瞳には隠しようもない情欲が揺れていて、 佐助の背にぞくりと甘い痺れが走る。 縛られた腕はそのままに、幸村は今度は体ごと下に移動させてきた。 長年忍んできた者としての経験か、またはた女としての感か、 これから起こる事を予期した佐助はどうにか逃れようと藻掻く。 それを「許さぬ、」と一蹴した幸村は逃がさぬように、 佐助の薄くしかし確実な膨らみを持つ胸に吸い付いた。 「……ああっ!い、やっ…………ん」 舌先でぷっくりと立ち上がった乳首を弄び、 唇で挟んで強く引っ張り、唾液でてらてらと光るそこを緩く噛んだ。 それだけで甘い声を上げ痙攣する佐助に追い打ちをかけるように、乳暈を丹念になぞってゆく。 「んんっ……!」 佐助はせめてあられもない嬌声を垂れ流しにしてなるものか、と歯を食いしばって、 間断なく押し寄せる快感をやり過ごす。 「佐助」 それを咎めるように発せられた声は、常には高い主のものとはかけ離れた低音さと苦り切った重みを持っていた。 この行為自体が不本意極まりない、と言った声音に、さすがの佐助も怒りを覚えた。 だがそれを言葉にする前に、唐突に顔を上げた幸村によって口を塞がれる。 強引に引き結んでいた唇をこじ開けられ、そのまま唾液さえ逃さないとでもいうように口腔を蹂躙される。 佐助は自分の上に跨り、己が最も知られたくなかった、 知って欲しくなかった事を、場所を、無神経に暴き立ててゆく主を、ただ呆然と見返した。 |