春の風の匂いに包まれて おろおろと廊下を右往左往する主に、流石に微笑ましさを通り越して呆れてしまう。 「佐助っ!!」 「はぁ〜い」 (とはいえ一応は主だからねぇ、) それに本当にそろそろ助けないと後でぐちぐちと言われかねない。 恨みがましい目つきで(俺に全く非はない)喚かれるのは、 簡単ではあったけれど結構長かった仕事帰りにはきついものがある。 「はぁ〜、分かりましたよ。」 いつもいつも結局最後に折れるのは自分なのだから。 「佐助ぇ、助けてくれ!」 「はいはい。で?」 「某は、」 「あ〜もういいよ。旦那は大人しくしてて。」 「なっ、それではお館様の御命令に…、」 「あのねぇ」 (だったら、俺を呼ばないでよ。) だいたい誰も、本気で幸村がこんなデリケートな事をやってのけられるなど思ってはいない。 大方からかいか、変な裏があるに違いないのだ。 (ま、大将の暇つぶしでしょ) 後日当たらずしも遠からずと 言うことが判明するわけだが…… 「うぅ、泣き止んで下され〜…」 「あ〜、苦手なのは分かるけどそんな抱き方しないの!」 ゴメンねぇ、もう大丈夫だからね。 旦那からやっと首が据わったくらいの乳飲み子を助け上げ、あやす。 すると、すぐに泣き止んでくれた。 「ほら、旦那は抱き方が荒っぽいんだよ。」 そういって顔を上げると… 「………何?」 「いや、なんでもないでござる。」 注視されたかと思えば真っ赤になって言葉を発し、 そのままどこかへ(と言っても旦那の行動パターンなどとうの昔に把握しているが、) 走って行ってしまった。 「何なんだろ、‥ねぇ。」 「だあぁ!」 俺の呟きに見事な相槌を返してくれた、腕の中の温もりを抱きしめながら、 呆然と旦那が疾走していった方向を眺めた。 「旦那、この子どうするのよ、」 この呟きも誰か拾ってくれないだろうか、 切実にそう思った。 |