「貴方の全てを下さい」「絶対に一回しか言わないからな…スキだ」 彼の怒った顔が好きだ。 そう言えば、相手はまたさぞかし憤慨して顔を真っ赤にするのだろう、その表情の変化が好きだ。 泣き顔も、……彼の養い親のため、というところが些か気に入らないけれども、どちらかと言えば好きな部類にはいるだろう。 けれど。 やはり、私は彼の笑った顔を最も愛おしいと感じるのだ。 「……何をしてるんだ。」 「ん?」 急に背後で聞こえた(否、本当は既にそれ以前から気配は認識していた)声に、ゆっくりと後ろを振り返ると、 あからさまに機嫌の悪そうな絳攸が私を睨みおろしていた。 「何をしているんだ。」 怒り声の絳攸に首を傾げ、手の内で玩んでいたボールペンを顎につける。 もう一度問われたが、彼が何を指してそう言っているのか分からない。 私がしているのは生徒会の仕事で、今日はお休みの会長が溜に溜めた書類の整理と修正だ。 「何を、って。これを?」 資源の無駄も甚だしい黒字の圧倒的に少ないB5用紙を指すと、絳攸の眉が奇妙に歪む。 おや、と思い注視する。 こう言っては何だが絳攸の眉は常時寄せられている事が多い。 というか、少なくとも生徒会活動をしている時は、私か会長かが常に彼の怒りを買う事が多いから、 自然仏頂面率は高くなるというものだ。 けれど、どうやら今回の事はそれとは違うらしい。 面白い、と私の胸が告げる。 迷っているのか。……否、悩んでいるのか。 立っている絳攸を、椅子に座りながら背筋を伸ばして真下から覗き込む。 「…な、なんだ。」 机に手をついて身を乗り出していた絳攸は、私の接近に慌てて身を引く。 困ったような様子に、予感が確信へと変わる。 けれど、それだけで突っ込むほど私も青臭くは、もう、ない。 「いいや、何も。」 にっこりと、いつも絳攸に「気色悪いわっ!!」と不興を買う笑顔で返してみる。 案の定、さらに彼は眉を寄せた。 「ねぇ、絳攸。私は会長の仕事をしているのだけれど。」 「…あ?あ、ああ。」 「何か、あった?」 目を細めて、口元を弛めて、上目遣いに。 途端に、顔を真っ赤にして口をもごもごと動かす絳攸に、今度は心からの笑みを向ける。 残念。 これが女生徒なら、7割方今ので落ちたのに……。 心中で零して、けれどおくびにも出さない。 出せば最後。 沸点を軽々と超えて私に殴りかかってくる絳攸が想像できる。 笑おうとして、目の前の本人を思いだして表情筋を引き締める。 彼の怒り顔は好きだが、あいにく被虐趣味は持ち合わせていない。 「何かって、何だよ。」 「私がそれを訊いているんだよ。」 笑いながらさらりと返した。 うっ、と詰まる絳攸を見ながら、さてどうしたものか、と二人しかいない生徒会室を見回す。 絳攸の向こうには、主のいない立派な会長机が鎮座している。 この寒さでダウンしてしまった会長のところへは、弟に心底甘い(ちなみに、私達へは金剛石のように固く厳しい)静蘭が見舞いに行っているらしい。 きっと今頃会長は、熱で緩んだ涙腺を遺憾なく発揮して静蘭を困らせているはずだ。 会長がいてくれれば、この緊迫した空気もいくらか緩むのに……。 他力本願にそんな事を考えながら、まだ返らない言葉を求めて絳攸を仰ぎ見た。 ふぅ、進歩無しだねぇ。 彼はこちらが驚くほど固まってしまっていた。 「絳攸。」 「な、ななんだっ。」 そんなに上擦って答えなくても、まだ何かしでかすつもりはないのだが。 「会長の机にある書類、取ってくれないかな。それで最後なんだ。」 「あ、……あぁ、」 …そんなことか。 私の耳は、絳攸の口から漏れ出た言葉を寸でところで掬い取る。 本人は訊かれたくないと思っているだろう、溜息のように吐きだされた声は安堵と不安が入り交じっていて、とても幼いものだった。 その声の持つ音は、瞬時に私を凍えさせ、失望の2歩手前まで追い込んだ。 絳攸から手渡された書類に目を通して、ふいに彼を見る。 「そんなこと、ねぇ?」 「なっ!?」 嫌み半分ににんやりと顔を歪めて呟けば、絳攸はおかしいくらいに驚いて固まった。 ああ、嫌われるかもしれない。 そう思うのに、むしろそうなればいい、なんて。 ズタズタに傷つけて、恐怖されて、毛嫌いされて。 そうして、二度と私に近づいてこなくなればいい。そうすれば、私はこれ以上彼を受け入れなくて済む。 彼の精神の中枢を覗きたいなんて好奇心も、心を許してほしいという願望も、私の全てを受け入れてほしいという欲望も、そんな己の感情に惑う夜も。 ……なかったことにはできないけれど。 今なら、終止符くらいなら打てるかもしれない。 『そんなことか。』 彼の子どものような声がリフレインする。 受け入れてほしくて、包み込んでほしくて、けれど拒絶される事を怖れるが故に一歩踏み出せない。そのうち、停滞する事に心地よさを覚えてしまった声だ。 絳攸がそんな心情を持つのは、一人しか(正確には少し違うのだろうが)いない。 私は、……結局彼の中にいる養い親殿には敵わない。 ぐぅっ、と彼の死角で拳を握る。 持っていたボールペンがギシッと軋む。 プラスチックは悲鳴を上げていた。 最後の書類に修正を加えて、紙束を整える。 「終わったよ。」 顔を上げ、斜め向かいの椅子に座る絳攸を見る。 さきほどから息を潜めるように黙り込んでいた絳攸は、弾かれたように私を見て、けれどすぐに目を逸らす。 「そうか。お疲れ。」 掠れた声で絳攸はそう言い、静かに帰る準備を始めた。 意気消沈した彼の様子に、疼く心臓部に気づかない振りをして、私も鞄に筆記用具を詰め込んでゆく。 いつもより乱暴なその所作に、一々絳攸が反応することに、さらに苛立ちが募る。 なにもかも一緒くたに放り込んで、椅子を引く。 ギィーーッ、と嫌な音が出た。 「楸瑛、」 本当に小さな声で呼ばれた自分の名前に、私は一瞬止まって、それからゆっくりと向き直る。 酷く思い詰めたような顔を私に向ける絳攸、その姿はまさに幼子のように頼りなくて、私に何を求めているようで、どうしたらよいのかわからない。 無意識に養親の庇護を求めているだけなのか。 ――――それとも。 「なんだい、絳攸。」 言動を改め、努めて穏やかな声音で問いかける。 絳攸はほっとした様子を隠さず、ゆっくりと私の机へ歩いてきた。 「あの、……さっきは、悪かった。」 私は、咄嗟に意図の曖昧な笑みを顔面に貼り付けた。 内心では目を見開いて、口が開くほど驚いているのだけれど、そんな様子は決して見せない。 他人に動揺を悟られてはいけない。 幼い頃からの教訓が無意識に働いた。 ――――え? その顔を見て、絳攸は一瞬泣きそうな笑みを浮かべた。 「絳攸?」 「悪かった。なんて言うか、少し気に入らない事があってだな…それで、」 歯切れ悪く、必死で何かを誤魔化すように続けられる言葉に、知らず知らず私の眉が寄っていく。 もしかしなくても、これは私のせいだろうか。 話しかけてきた時の絳攸は、まだ何かを決意していて、透き通った淡色の瞳には光が見えていたのに……。 「こうゆ、」 「本当に悪かった。お前を不快にさせた。すまん。…あ、あのそれじゃあ、な。」 「絳攸!!」 また明日、と言って苦い笑みを見せる絳攸を慌てて引き留める。 ガタンッ、と大きな音をさせて立ち上がり、机越しに彼の腕を掴む。 私の大声に驚いたらしい彼が目を見開いている様子を見て、少しだけ冷静になれた。 けれど、未だ私の中には嫉妬と疑問が渦を巻いている。 「違うんだ絳攸。」 ……何が違うと言うんだ。 思わず発した言葉に、私自身が心中で反駁する。 何も違わない。 絳攸の言動に私が怒りを覚えた事も、不快になった事も、そしてその感情を自身の心の中だけに沈めきれず、絳攸にあたった事も。 ――子どものようだな。 そう無理矢理断じると、いやにおかしさが込み上げてきた。 我慢しようとすればするほど、衝動はどうしようもなく高まってゆく。 「ふふっ、」 「は?」 突然笑い出した私に、今度こそ絳攸が瞳がこぼれ落ちそうなほど瞠目して、怒り出した。 半眼になり口先を尖らせる仕草を。 それを、これ以上なく可愛いと感じる私は大概どうかしているのだろう。 「なんなんだ!!おい、聞いてるのか、楸瑛!!!」 怒鳴り声を上げて、自分の手を掴んでいた私の腕を振り払い、逆に胸ぐらを掴もうとする彼の度胸と負けず嫌いはさすがだと思う。 この気を逃すことはないだろう。 堪えきれない笑いの合間に、私は数十分前の問いをもう一度言ってみた。 「ははは、ねぇ、絳攸。…さっきの話なんだけれど。」 「なんだよっ!」 「何かあった?」 「……」 食ってかかってきた絳攸に首を傾げながら声を発すると、今までの剣幕が嘘のようにしーんとした沈黙が訪れた。 胸ぐらを慌てて離そうとする絳攸を押し止めて、逃げられないように肩を掴む。 「しゅうえいっ、」 「養親殿のことかな?それとも志望校のこと?」 「なっ!」 大きく口を開けた彼に顔を近づけて、間近で瞳を凝視する。 後退ろうとする絳攸を引き留める。 ……意外にも図星を突いていないことが、これほど嬉しいとは思わなかった。 「じゃあ、何かな?」 「そ、そんな事。お前には、関係ないだろう…。」 精一杯目を逸らした伝えられた言葉は、掠れてほとんど聞こえなかった。 囁くような声を発して、その瞬間耳を赤く染めた絳攸を見て、前の質問とは別次元で考えたくなかった事柄が脳裏に浮かぶ。 …嫌だな。 そうは思っても、養親と勉学以外に彼を悩ませる事が他に浮かばない。 考えれば考えるほど、妥当なように思えてくる。 「誰かに告白された、とか?」 「……っ!」 これも違ったらしい。 耳を赤くしながら、声にならない叫び声を上げてふるふると全力で首を振る絳攸に、ほっと息をなで下ろす。 ここまで焦らされて、これこのクラスの女生徒とつき合うから、などと言われた日には絶対に立ち直れない。 とはいえ、じゃあいったい何なんだ。 「絳攸、」 「お、まえ!告白なんぞ俺がされる訳ないだろうっ!?」 「そこまで否定しなくても。」 思わず声に出してしまうほど全否定した絳攸に脱力する。 この様子では私の立場もないな。 「…ん?」 諦めたように笑って絳攸を眺めていると、どうやらさっきの台詞には続きがあったらしい。 下を向いているため顔は見えないが、切羽詰まった声に少し気圧される。 「お、れは!」 「絳攸?」 「俺は、お前とは違う!得手勝手に女の間をうろうろ遊びほうけて、本気の告白にも詰まる事もなく体の良い断り文句が浮かんで! 何でもかんでも笑って済ませて、こなして…っ!」 「こ、」 「巫山戯るなよっ!!!」 怒鳴り声、というより悲鳴のような言葉に呆然と、顔を上げた絳攸を見る。 まだ声は続く。 「俺はっ、お前、みたいにはなれないんだ!!お、前みたいに何があっても、受け、流せたら……。そう、したら、」 絳攸は泣いていた。 正確には涙が零れそうになるのを必死で、歯を食いしばり瞳を見開き耐えている。 それでも、後一歩で零れようとした涙を、ごしごしっと勢いよく手の甲で拭いた。 私のように? 私のようになりたいと、…彼は本気でそう言っているんだろうか。 私にないもの、持てないし持つ事も許されないものを数多く手にしている君が、それでも私に憧れる箇所があるというのか。 「絳攸。それは、傲慢だよ。」 大した推考もせず、口から音が漏れた。 絳攸は涙が滴り落ちる目で私を睨みつけている。 その視線を真っ正面から受ける覚悟が、……ようやく私にもできた。 「傲慢だよ。なぜなら、私もずっと君が羨ましかった。」 「は?…なんだよ、それっ、は。」 鼻をすする音に混じって、絳攸の反論が聞こえる。 彼の肩を掴んでいた腕を二の腕に下げて、ゆっくりと歩いて移動する。 机越しではなくて、何も隔てるもののない位置で彼と相対さなければ、と。そんな一種の強迫観念に囚われる。 「本当だよ。君は私にないものを多く持っているからね。…誰でもが、そうだ。」 「詭弁だっ。」 「違う。」 即座に否定する。 その返事に、絳攸は少しはっとしたようだ。 癇癪を起こす絳攸に、私はできるだけゆっくりと、噛んで含めるように言い聞かせる。 「私は君が羨ましいよ。私は内に渦巻く感情のまま振る舞う事を、酷く億劫に思ってしまうからね。」 「何げに俺を莫迦にしてるのか。」 「だから違うよ。絳攸。」 しだいに絳攸を見る自分の目が柔らかくなっていっているのを感じた。 彼の発言で心に渦巻いていた疑念が、さぁーっと晴れていく。 分からない、と言う風にむくれる絳攸に、この清々しい気持ちを伝えたくて、伝わってほしくて、心から笑いかける。 息を呑む音が聞こえた時、私の決意は完全に固まった。 「私は。君が好きだ。」 「……何?」 絳攸の第一声はまるで時代劇に出てくるヒーローのようで、顔も悪と対峙した彼らと同じように渋くなっている。 ああ、信じてないな。 「信じられない?それとも、信じたくない?」 二の腕を掴む手に力を入れて、絳攸の顔を覗き込む。 彼と目線を合わせると、呆然とした表情から一気に真っ赤になって、視線を逸らされた。 その変化に、内心にやりとする。 全く脈無しかと思っていたが、実はそうでもなかった、…かもしれない。 「ねぇ、絳攸。君はどうかな?」 「な、にが……っ、」 切れ切れに唇から漏れる喘ぎ声に似た単語は、彼がどれほど動揺しているかを教えてくれる。 また一歩、彼との距離を縮める。 男同士だとか、興味本位だとか、そういう反論なら封じる自信があった。 絳攸が嫌悪を見いだして、離れていかないことだけを願う。 「嘘じゃない。何度でも言うよ、私は君が好きだ。」 「しゅ、楸瑛!?」 あわあわっと、どこに目をやって良いのか分からないかのように忙しなく視線を移動させる絳攸を、正面から見る。 「最初は興味だった。君は初めてあった時から、私が常に接している人達とは全く違う反応を見せてくれたからね。」 そっと、もう一度肩に手を置くと、ぴくりと絳攸の表情が歪む。 けれど、もう離そうとは思わない。 「君は純粋で、見ていてこちらが心配になるほどまっすぐだからね。」 「そんな事、ない。」 「そうかもしれない。」 けれども、私にとっては違ったんだよ。 小説を書くように、絳攸に語りかける。 絳攸はようやく少し落ち着いてきていた、相変わらず目は合わせてもらえないが。 「惹かれていったのが、いつからかは私にもわからない。君は私を羨ましいと言った。けれどね、絳攸。 私も嫉妬を覚えるほど君が羨ましいし、…同時に、触れたくてたまらない。」 「……」 絳攸が下を向いたままでも分かる、彼の顔は真っ赤になっているだろう。 なにせ耳まで桃色に染まっている。 私は、絳攸の肩に置いた自分の手を見る。 その手と対比して、絳攸の肩は小さい。 というより、薄い。 運動をそれほど得意としていないから、同年代と比べても線の細い肉体だ。 ――今、手に力を込めたら。 彼の肩を壊すことくらいはできるだろうか。 たとえ傷が癒えても恐怖は拭いがたく残り、彼の中に永遠に私の存在を刻み込む。 馬鹿げた考えと、それを思いつく自分を嗤う。 私はそろりと、上を向いた絳攸に視線を移した。 「俺は、」 絳攸は必死で声を絞り出そうとしていた。 その様子は熱心を通り越して、危うくさえある。 「絳攸無理して言わなくても、私は――――、」 「俺はお前が羨ましくてっ、悔しくてっ。」 私の制止を振り切って、絳攸は叫ぶように話す。 校舎内には、私達だけしかいないのだろうか。 辺りは静寂に包まれていて、私と絳攸以外の生命の動きが感じられない。 「俺も、お前みたいにそつなくこなせれば。そうすれば、隠すことだってできたのにっ。」 「隠す?」 訳が分からず口に出すと、途端に絳攸は下を向いてしまう。 顔は相変わらず赤い。もはや恥ずかしがっているのか、熱があるのか、自信がなくなってくる。 ずずっ、と下から鼻をすする音がする。 「お前なんて嫌い、だ。いらん時には何でもかんでも、俺の考えを読む、くせに!」 「こ、うゆう?」 「こういう時だけ、腹立つほど鈍い!!」 八つ当たりか? 否、この声は真剣だ。 絳攸の言葉を聞いていると、だんだん私の欲望に偏った考えばかりが頭を占める。 確かめようか迷っていると、絳攸が盛大に呻いた。 「何かあったか、と聞いたな!?お前のことを考えていたんだっ!!」 「……」 柄にもなく、零点何秒間か完全に停止してしまっていた。 確実にこの耳で聞いたことだが、都合のいい幻聴の気もする。 絳攸、それは本当かい? 尋ねたくて堪らない。 けれど、問うてももう答えてはくれないだろう。何せ、今にも卒倒しそうなくらい頬が紅潮している。 「……嘘、じゃな、い。お前とは違う。こんな時に偽ったりしない。」 落ち着いた、翳りを帯びた声音だった。 「確かにね。」 今までと打って変わって静かな声に、私は小さく息を吐く。 肺の底に沈殿していた薄暗い影を追い出すと、四肢の末端からじわりじわり、と目の前で宣告を待つ絳攸への想いが突き上げてくる。 その波は抗う気は、もうおきない。 肩を勢いよく引き寄せる。 ちょうど、子ども一人分くらいあった隙間をゼロにする。 左肩に置いていた手を背中に回して、右肩の手を彼の髪に差し入れた。 ぎゅーっ、と大して手加減もせずに全身をかき抱く。 ――どれほど焦がれただろう。 手に入りにくいものほど、人は持っている他人を羨む。 絶対に、決して絳攸は私を受け入れてくれないと思っていた。 だから彼の全幅の信頼を勝ち得ている養い親が羨ましくて、妬ましくて、憎々しくて堪らなかった。 だが、――――。 「しゅ、楸瑛っ!!?」 「…ありがとう。」 「はぁ!?」 盛大に疑問の声を上げた絳攸を、抱きしめ、胸の中に仕舞い込んで、二度と誰の目に触れさせたくない、 と思いながら私はゆっくりと彼の頭から手を離した。 「しゅうえい?」 「ありがとう、絳攸。」 「だから、何が…、」 真っ赤な顔の中に怪訝な表情を浮かべた絳攸に、私は唇の端を上げて笑った。 そして驚かせないように、なおかつ自然に彼の顔に顔を近づける。 軽やかに。 ほんの一瞬だけ合わさった唇から、絳攸の体温が伝わる。 「私の想いを受け容れてくれて。」 ぱちり、と絳攸が長い睫毛を上下させる。 「そして、私に君をくれて。」 きょとん、とした姿に笑って、私はもう一度彼を抱きしめ、煌々と差し込む西日を遮るためにカーテンを閉めた。 ---------------------------------------- 77777Hit、「彩雲国物語」双花です。 長らくお待たせ致しました。 リクを頂いたのが11月だから既に2ヶ月。遅筆で申し訳ないッス…。 ところどころ強引な展開はありますが、その強引さが双花たる所以だと、勝手に思ってますよ。 パラレルになると楸瑛は結構大人です。 そして、やたらと絳攸に甘い。そりゃもう全てにおいて寛容、ってかあまい。 うちの双花は大体そんな感じですが……。 では、訪問いただいた皆様、ありがとうございます。 上記の小説は77777リクエスト作品です。 くろ様のみお持ち帰り可です。 オ・マ・ケ? 「そう言えば、気になっていたのだけれど。」 「何が。…っていうか、いい加減離せ!楸瑛!!」 「まあまあ、」 「うがぁああーー!」 「あはは、面白いね。絳攸。」 「全く面白くない!」 「話に戻るけれど、最初君、怒っていなかったかい?私は真面目に会長の仕事をしていたと思うのだけれど。」 「あ、あれはっ!」 「何故機嫌が悪かったの?テストの成績が芳しくなかった、とか?」 「んな、訳ないだろう!?そんなアホらしい理由で俺は――、」 「じゃあ、何が原因なんだい。」 「…あれは、貴様がっ。お前が、」 「私?」 「お前がボールペンやら鉛筆を、…につけるから。」 「聞こえないよ。」 「……っ!!もういい、知らんっ。」 「もう一度言って、絳攸。私の唇がどうしたって?」 「き、貴様っ!聞こえてるんじゃないかっ!!!」 「さて、何のことだかね。」 「うわっ、止めろ。楸瑛、近い近い近いぃーーーっ!!」 |