treasure


光は目には見えぬもの。

捉えることはできても、形は掴めない。



  掴めぬ光、手を伸ばす



「あ、れ…黎深様」

吏部の扉を開けて、絳攸は驚いたように声を出した。
いらっしゃったんですか、と書簡を置きながら言うその言葉に黎深は眉間に皺を寄せた。
「いては悪いか、ここは私の仕事場だ」

「…仕事はなさらないですがね…」

それに言い返そうとして、やめる。
黎深は吏部からの書簡を絳攸に届けさせたのだ。
普通なら人より三倍はかかる道程を、人並みに絳攸は帰ってきた。

「…ふん。ところで絳攸、お前にしては帰ってくるのが早かったな」

「………いつもいつも迷うわけじゃありません」

返答の遅さに、黎深はあることに気付く。
いつでも、あの目障りな藍家の四男はこの養い子の近くにいるのだ。

いつかは後ろを歩いてきた絳攸も、この手を離れて、自立していくのだと。

そんなもの親である者の宿命であるのに。

隣を歩くのが、自分でないことがここまで腹立たしいかと。

「…黎深様?」

はっとして絳攸を見れば、彼は怪訝な顔をしていた。

「どうかなさいましたか?」

「…お前が気にすることではない」

そう、『絳攸』の名前を与えたのは他でもない自分、今更口出しもできない。

「…でも」

「いい。体調が悪いわけではない」

「…わかりました、なら私は主上のところに戻りますから」

絳攸自身は後ろ髪を引かれる思いだったのだろう、彼は少し心配そうな顔で部屋を出ていった。


今、黎深が楸瑛と付き合うのをやめろ、と絳攸に言ったら彼はどうするだろうか。

言うとおりにするか反抗するか――悩んで自分が折れるか。

有り余るほど考え付く結果。
彼にとって自分と同じ位置に他人が来たことがこんなにも嫉ましく、そして羨ましい。
自分にはその輝きを見て手を伸ばすだけだったのに、触れられる者が現れるとは。

今はこうして考えて終わるだけでも、いつかは彼の光を消してしまいそうだ。

嫉妬など、兄と姪関係以外に考えられなかった。

――今は、世界が広がったのだと言う、妻の言葉を信じておこう。


  END



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『soundscape』の紫藤侑貴様より、
キリ番9669のリク小説を頂きました☆
嫉妬する黎深様をお願いしたんですが、見事に書いて下さってっ!!
紫藤様、ありがとうございました。