光は目には見えぬもの。 捉えることはできても、形は掴めない。
吏部の扉を開けて、絳攸は驚いたように声を出した。 「…仕事はなさらないですがね…」
それに言い返そうとして、やめる。 「…ふん。ところで絳攸、お前にしては帰ってくるのが早かったな」 「………いつもいつも迷うわけじゃありません」
返答の遅さに、黎深はあることに気付く。 いつかは後ろを歩いてきた絳攸も、この手を離れて、自立していくのだと。 そんなもの親である者の宿命であるのに。 隣を歩くのが、自分でないことがここまで腹立たしいかと。 「…黎深様?」 はっとして絳攸を見れば、彼は怪訝な顔をしていた。 「どうかなさいましたか?」 「…お前が気にすることではない」 そう、『絳攸』の名前を与えたのは他でもない自分、今更口出しもできない。 「…でも」 「いい。体調が悪いわけではない」 「…わかりました、なら私は主上のところに戻りますから」 絳攸自身は後ろ髪を引かれる思いだったのだろう、彼は少し心配そうな顔で部屋を出ていった。
言うとおりにするか反抗するか――悩んで自分が折れるか。
有り余るほど考え付く結果。 今はこうして考えて終わるだけでも、いつかは彼の光を消してしまいそうだ。 嫉妬など、兄と姪関係以外に考えられなかった。 ――今は、世界が広がったのだと言う、妻の言葉を信じておこう。
『soundscape』の紫藤侑貴様より、
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