晩秋、恋耽る
「寒い…」
絳攸の呟きは空しく空に消えていった。
そしてまるでそう呟くのを見計らったかのように北風が吹いた。
季節はもうすっかり冬のようだ。
手に息を吹きかけても芯から冷えた手には何の効果もなかった。
(もうそろそろ手袋も必要だな…)
さて何処に仕舞ったか、と絳攸が思案に暮れていると、耳に馴染んだ足音が聞こえてきた。
「待たせたね、絳攸」
声のした方に視線を向ければ、同じクラスで同じ生徒会に所属していた楸瑛が立っていた。
高校入試の時、ちょっとした出来事がきっかけでこうして腐れ縁のごとくことあるごとに一緒になるようになった。
まあそのおかげで中学に比べて難なく(迷うことなく)高校生活が送れているのだから、嫌というわけでもないのだけれど。
歩きながら、待っていたわけじゃない、と言おうとして、やめた。
そんな事を言ってもどうせ
『じゃあどうして先に帰らないんだい?ああ、そうか帰らないんじゃなくて帰れないんだっけ』
とからかわれるに決まってる。
もう既に経験済みだ。
その代わり、というわけでもないけれど、
ただ何となく何か言わなければいけない気がして、さっきの言葉を反復するように絳攸は「寒い」と呟いた。
寒さの所為で固まってしまったかのようにうまく唇を動かせなかったので、どこかぎこちなかった。
「私でよければいつでも温めてあげるよ」
そう言って腕を取り、引き寄せられた所為で絳攸はバランスを崩した。
結果、楸瑛にしがみつくような格好になってしまった。
「うわっ、」
「今日の君は積極的だね」
飄々と笑いながら、いつもそうならいいのに、
と耳元で囁く言葉の響きが睦言に似ていて、絳攸は顔が赤くなるのがわかった。
手を振り払おうともがいてみても運動部系の部活を掛け持ちまでしていた楸瑛に敵うはずも無く、
絳攸は抵抗をやめた。
そういえば、忘れていたが此処は人通りは少なくとも一応公道なのだ。
知らず知らずのうちに大声を出していたことに気付き、改めて恥ずかしくなった。
「…もういいだろ。手、離せよ」
恥ずかしくて遣り切れなくなって、絳攸は半ば溜息混じりにそう抗議した。
いつの間にか握られた手。高校生にもなって、恥ずかしいじゃないか。
そんな絳攸の心中を知ってか知らずか楸瑛は
「いいじゃないか、減るようなものじゃないし」
と言った。
減ったら困るだろう、とか的外れな事を考えながら、絳攸はしょうがなく楸瑛のその言葉に甘んじる事にした。
温かいし、それに…。
もしかしたら自分は離したくなかったのかもしれない。
楸瑛の手は温かくて、じんわりと芯から溶けるようだった。でもそれだけじゃない気もした。
…もし、と最近ふと考えることがある。
もしこいつがいなくなったら、俺は生きていけるんだろうか、と。
馬鹿みたいだ。でも、こんなに不安になるのはどうしてだろう。
冬は無性に寂しくなる。人恋しい、と言うのだろうか。きっとそのせいなんだ。
そんな気持ちを紛らわすように、絳攸は握られた手を、心なしか少し力を籠めて握り返した。
すると楸瑛は少し驚いたような顔をして、でも嬉しそうに笑って、温かいね、と言った。
なんて、優しいんだろう。気を抜けばつい泣いてしまいそうだ。
寂寥感と幸福感で、何だかおかしくなってしまいそうだ。
…今は、まだこの優しさに甘えていよう。
握られた手の感覚と温度を噛み締めながら、絳攸は心の中で、ありがとう、と呟いた。
それから、好きだ、とも。
少しだけ、不安が軽くなったような気がした。
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『ロジカルドロップ』のmonochro様に頂きましたvv
6666リクの現代パラレルの双花です!
現パラ大好き人間なので、もうホント感激です!!
しかも絳攸素直だし、微妙に惚気てるし、カワイイしっvv
両想いで初々しい二人ってやっぱり良いです。
リク小説、ありがとうございました!
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